著者
石原 慎司
出版者
日本音楽表現学会
雑誌
音楽表現学 (ISSN:13489038)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.13-22, 2021-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
19

戦前の日本のオーケストラが外国人指揮者を通して受容した演奏様式などの音楽表現上の要素について、具体的にそれがどのようなものだったのかはこれまで未解明であった。この点は日本のオーケストラの歴史形成を知る上で重要な情報であるが、それを言語化したものや録音物が非常に限られていたために解明が進んでいなかったのである。そのような中、ドイツから来た指揮者による昭和15 年度のオーケストラ指揮法講義の記録ノートが発見され、日本人が教わった、つまり、受容したといえる音楽表現内容の一事例が判明した。 講義は管弦楽曲を教材とした専門的な指揮法を含み、音楽表現上の高度な内容を包含していた。また、山田耕筰も立ち会っていたことから、受講者は戦後の日本を担う日本人指揮者が含まれていた可能性が極めて高い。そこで、この講義で説明された運動・動作から指揮者が意図した音楽表現上の要素を読み解き、19 世紀以前の演奏習慣や指揮技法の地域的な出自に関わる情報と照合した。その結果、講義内容は当時のドイツに見られた指揮技法や音楽表現上の要素と共通すると思われる部分がみられた。したがって、戦前の日本のオーケストラにも、当時のドイツのオーケストラで鳴り響いていた音楽表現が確実に伝播しており、演奏されてもいたと考えられる。