著者
石川 享宏
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小脳は運動学習において重要な役割を担っていると考えられ、学習すなわち入出力関係の調節は、下オリーブ核から小脳皮質に投射する登上線維入力によって制御される。したがって登上線維入力の生成メカニズムを明らかにすることができれば、小脳を介して適応的に運動を調節・制御する脳内メカニズムの理解が大きく前進すると期待される。本研究の目的は下オリーブ核に情報を伝達する神経回路と、それらの情報によって登上線維入力が生成される生理学的なメカニズムを解明することである。当該年度においては、小脳の中でも特に大脳皮質との間にループ状の神経回路を形成する大脳小脳に注目し、まず始めにマウスを用いて大脳運動野や末梢神経の電気刺激に対する応答を調べた。その結果、大脳小脳の一部であるCrus Iにおいて、両方の刺激に対して登上線維入力に伴う複雑スパイクが生じるプルキンエ細胞が多数観察された。刺激から応答までの潜時がほぼ同じ(12 msec)であることから、Crus Iに登上線維を送る下オリーブ核の一部(主オリーブ核)において中枢および末梢からの入力が同一の細胞に収束していると考えられる。そこで脊髄の一部(C5-7)に順行性の神経トレーサーを注入したところ、主オリーブ核の一部に直接投射していることが確認された。従来、主オリーブ核は主たる入力を大脳皮質から赤核経由で受けるとされてきたが、実際には脊髄からの直接入力も受けており、電気生理実験の結果が示すように大脳小脳において運動時には運動指令と感覚フィードバックのいずれに対しても登上線維入力が生成されうることが示された。