著者
糸川 昌成
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

我々はメチオグリオキサールの分解酵素glyoxalase 1(GLO1)に50%活性低下をもたらすフレームシフト変異を持った家系を同定し、それをきっかけとして内科合併症を持たない統合失調症の46.7%で末梢血にAGEsの蓄積を同定した(Arai et al. Arch Gen Psychiatry 2010)。統合失調症と関連する揮発性分子に注目し、その合成代謝経路を明らかにすることで病態を解明することを目的とした。病棟の空気を捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、揮発性分子を同定した。
著者
本多 真 児玉 亨
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

眠気と脂質代謝:カルニチンの効果主観指標を用いたL-カルニチン過眠改善効果について、奏功基盤を動物での基礎検討と客観指標を用いた臨床研究で検討した。L-カルニチンは中枢・末梢ともにCPT1活性指標を改善させ、ドパミン系などの脳内の遺伝子発現や代謝産物を変化させ、実際に休息期特異的に睡眠の増加をもたらした。臨床研究と共通し睡眠段階遷移指標での睡眠安定化作用が示唆された。4割程度にL-カルニチン反応群が存在し、その判別法を検討した。
著者
宮川 卓 徳永 勝士 豊田 裕美
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ナルコレプシーを対象としたゲノムワイドメチル化解析を実施した。さらにそのデータとナルコレプシーのゲノムワイド関連解析を統合した解析を行い、ナルコレプシーの新規感受性遺伝子としてCCR3遺伝子を同定した。平成29年度から特発性過眠症の研究も開始した。特発性過眠症は長時間にわたる睡眠エピソードが出現し、日中に強い眠気を感じ、総睡眠時間が11時間以上となる特に重症な中枢性過眠症である。その病態及び原因が解明されていないため、治療法が確立しておらず、対症療法に用いられる薬剤は副作用が多いことが問題となっている。そこで、特発性過眠症の遺伝要因を探索するために、ゲノムワイド関連解析を実施した。ゲノムワイド有意な一塩基多型(SNP)は同定されなかったが、疾患関連候補SNPを抽出した。平成28年度までの研究で、ナルコレプシーと真性過眠症を含む中枢性過眠症のゲノムワイド関連解析によりCRAT遺伝子の近傍のSNP(rs10988217)が真性過眠症とゲノムワイドレベルで有意な関連を示すことを見出している。発現解析及びメタボローム解析の結果を統合的に解析した結果、rs10988217遺伝子型は血中スクシニルカルニチン濃度ともゲノムワイドレベルで有意な関連を示すことがわかった。上記のようなSNPだけでなく、頻度の低い変異も睡眠障害に関わる可能性が高いと考えている。平成28年度までに、PER2遺伝子上に頻度が低く、アミノ酸置換を伴う疾患関連の候補変異(p.Val1205Met)を見出している。そこで、実際に睡眠障害と関連するか検討した結果、当該変異が睡眠相後退症候群及び特発性過眠症と有意な関連を示すことを見出した。
著者
黒田 純子 林 雅晴 川野 仁 小牟田 縁
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

子どもの脳の発達障害の一因として、環境化学物質の影響が懸念されている。本研究では、リスク評価が不十分な農薬ネオニコチノイドの低用量長期曝露の影響を、発達期のラット小脳神経細胞培養を用い、遺伝子発現の変化から発達神経毒性を調べた。ニコチン、ネオニコチノイド2種を低濃度で2週間曝露した小脳培養のmRNAをDNAマイクロアレイで解析し統計処理した結果、複数の遺伝子で1.5倍以上の有意な発現変動を確認した。3種の処理で共通に変動した遺伝子には、シナプス形成に重要なカルシウムチャネルやG蛋白質共役受容体などが含まれており、ネオニコチノイドはニコチン同様に子どもの脳発達に悪影響を及ぼす可能性が確認された。
著者
平井 志伸
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

サブプレートニューロン(SPn)は、人では疾患の種類によりその数が増減していることが知られている(アルツハイマー病患者では減、自閉症や統合失調症患者では増)。そこで、マウスを用いて、SPnの数が脳機能に及ぼす影響を検証した。まず我々は、今まで困難だった、SPn特異的な遺伝子操作の系を確立した。具体的には、アデノ随伴ウイルス(血清型9)を用いて、胎児期の適切なタイミングで脳室にウイルスを投与するという手法である。現在、この系を用いてSPn数を人工的に増減させた際の脳機能の変化を、組織学的、行動学的に解析中である。
著者
糸川 昌成 瀧澤 俊也 新井 誠
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

GLO1のrare variantから同定された統合失調症のカルボニルストレスは、一般症例の40%でも検出された。カルボニルストレス陽性症例の臨床特徴については、カルボニルストレスを反映する二つの有力なバイオマーカー候補分子であるペントシジンとビタミンB6を用いて163名の統合失調症患者を4群に分類し、統合失調症の精神症状評価尺度である PANSS を実施して臨床特徴を比較検討した。その結果、カルボニルストレスを呈する患者群では、カルボニルストレスの無い患者群と比較して、入院患者の割合が高く、入院期間が4.2倍と長期に及び、投与されている抗精神病薬の量が多いという特徴が明らかになった。
著者
李 鍾昊
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

予測制御とフィードバック制御の評価に基づいた神経疾患治療ナビゲーターシステムを構築し、小脳疾患やパーキンソン病などの神経疾患患者の手首運動を評価した。小脳患者の指標追跡運動を分析した結果、疾患の重症度に応じて予測制御やフィードバック制御、両方の精度が悪くなり、小脳が両方の制御器に深く関係していることが明らかになった。その一方、パーキンソン病患者ではこの2つの運動制御器だけでは病態の特徴がはっきり抽出できなかったが、さらに3Hz以上の不随意運動領域(F3領域)も分析した結果、6Hz前後(4-8Hz)の小刻みな階段状運動の定量的計測によりパーキンソン病患者の病態をより高精度で評価できた。
著者
西田 淳志 山崎 修道 川上 憲人 長谷川 眞理子
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

西田らは、主体価値測定アプリを開発し、思春期大規模コホート研究に導入した。その結果、思春期のロールモデルの獲得・更新と自己制御性の発達が、自律性の成熟の基盤となり、さらにその自律性が基盤となって主体価値が形成されていくことを解明した。山崎らは、全英出生コホートデータを用い、思春期の主体価値と自己制御の発達の相互作用が高齢期のウェルビーイングを予測することを解明した。川上らは、国内外のコホートデータを用いた一連の研究から、思春期主体価値の2要因モデルを提唱した。
著者
新井 誠 宮下 光弘
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、ヤマブシタケ由来抽出成分を服用し、顕著に統合失調症の幻覚、妄想が奏功した症例に着目し、従来の病態仮説に依拠しない統合失調症の分子病態を明らかにすることを目的とした。当該症例の末梢血、尿検体を採取し、CE-TOFMS、LC-TOFMSによる代謝産物の測定を行った。CE-TOFMSにより155の物質ピークが検出され、LC-TOFMSによる測定からは114のピークが検出された。症例の服薬量の漸減、漸増に伴い、特徴的代謝産物の変動が認められた。抗精神病薬服用を必要としない状態にまで回復した症例の分子基盤を探ることは、難治性統合失調症の治療戦略を再考する上で重要な知見を与えるものと期待できる。
著者
勝又 竜
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は脊髄及び脳に存在する運動神経細胞が変性し、四肢の筋及び呼吸筋の筋萎縮をきたす疾患である。ALSは急速に症状が進行し、発症から死亡もしくは人工呼吸器などの侵襲的換気が必要になる期間は20-48ヶ月と予後が悪い。現在、ALSに対する根本的治療法は乏しく治療法の開発、あるいはその病態解明は急務である。本研究は、ALSの神経細胞内に確認される異常構造物でありながらその成り立ちが不明であるBunina小体に注目し、その構成蛋白を明らかにすることを目的とした。それによりALSの病態を深く理解することができる様になり、ひいては治療法や早期診断法の開発に寄与できると考えている。
著者
田島 陽一
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん増悪化における細胞融合の役割は、染色体およびDNAの不安定性によって腫瘍の表現型に多様性を生み出すことが考えられる。ただし、細胞融合が悪性腫瘍の引き金になるかは不明である。間葉系幹細胞(MSC)と膀胱癌細胞との細胞融合により融合遺伝子の形成、細胞の形質変化、および腫瘍形成に変化が見られた。また、細胞融合により多くの遺伝子が変動した。その中のX遺伝子は腫瘍の成長につれて発現が増加する傾向を示し、遺伝子破壊により腫瘍形成が抑制される知見を得た(論文作成中)。これらの結果からMSCとがん細胞との細胞融合は、がんの多様性に関与する可能性があると考えられる。
著者
岡戸 晴生 平井 志伸 田中 智子 新保 裕子 三輪 秀樹
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

成熟後にRP58の発現を減弱させたところ、やはり認知機能の低下を見出し、RP58の発現を興奮性ニューロンで増加させたところ、生理的な加齢に伴う認知機能低下を抑制できることを見出した。さらに興味深いことに、ヒト型変異APPホモマウス(アルツハイマー病モデル)にRP58発現アデノ随伴ウイルスを用いてRP58を過剰発現させると、低下した認知機能が改善した。すなわち、ウイルス投与前(3ヶ月齢)では、物体位置認識および新規物体認識試験テストにより、APPホモマウスは認知機能が低下していたが、RP58発現ウイルス投与後1ヶ月後には、認知機能が正常レベルに回復していた。一方、GFP発現ウイルス投与1ヶ月後(コントロール群)では認知機能は低いままであった。組織解析において、RP58補充群では、アミロイド斑はサイズがコントロールと比較して小さい傾向が見られ、RP58を補充したことによりアミロイド蓄積が抑制された可能性を示している。以上のことから、RP58は不可逆的と考えられていた、老化やアルツハイマー病に伴う認知機能低下を可逆的に制御している可能性が示された(岡戸、新保:国際特許出願,2020)。
著者
小原 道法
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

乳がんは女性のがんで多く見られる悪性腫瘍で、現在1年間に新たに乳がんと診断される日本人女性は6万人を超える。根治が困難な症例も多く、適切な乳がんモデル動物で乳がんの生物学特性、治療および予防法を研究するのは急務である。乳がんモデルとしてツパイの検討を行ってきた。ツパイは、体重が約150グラムの小型哺乳動物で、ツパイ目ツパイ科に属している。ツパイは人に近い遺伝情報を持ち、ツパイの神経伝達物質の受容体は齧歯類より霊長類のものと高い相同性を持つために、毒物学とウイルス学、抗うつ薬などの前臨床研究で利用されている。また、ツパイの乳腺の生理学的特徴と発育などはヒトに類似している。自然発症乳腺腫瘍を観察した結果、発生率は24.6%(15/61)、再発率は60%(9/15) であった。細胞診の結果、上皮系悪性腫瘍であった2個体の腫瘍組織について精査を行った。多発性の全ての腫瘍組織でプロゲステロンレセプターが陽性、91.3%でエストロゲンレセプターが陽性、4.3%がHER-2陽性であった。また病理組織学的検索と実験動物用X線CT LCT-200解析の結果、腹腔内で内分泌系腫瘍も観察された。以上の結果から、ツパイは自然発症乳腺腫瘍モデルとして有用である可能性が示唆された。
著者
飛鳥井 望
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

被災者・被害者遺族や自死遺族における、外傷後ストレス障害(PTSD)を伴う遷延性(複雑性)悲嘆のための「外傷性悲嘆治療プログラム」の研修教材を作成し、指導法を確立した。研修修了者がスーパービジョンのもとに同プログラムを実施し、十分な治療成果を上げることができた。また東日本大震災の被災者調査において、遷延性悲嘆症状はPTSDや抑うつとは独立した症状因子であることを明らかにし、被災者・被害者遺族に対するトラウマと悲嘆の双方に焦点を当てた精神療法の妥当性を示唆した。
著者
鈴木 輝彦
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、複数の遺伝子導入用ベクターを同一の遺伝子受容部位へ同時に導入する手法Simultaneous/sequential Integration of Multivector system (SIM system)を開発した。本手法により、最大3つのプラスミドベクターを同時にヒト人工染色体(HAC)の遺伝子受容部位へ導入することが可能となった。この方法を用いることにより細胞のリプログラミングや分化段階の解析などに必要な複数の遺伝子を効率的に HACに導入し利用することが可能となった。
著者
井手 聡一郎
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、痛みによる情動変化に対する側坐核内領域特異的ドパミン神経情報伝達の生理的役割を明らかにすることを目的とした検討を行った。痛み刺激負荷後の側坐核内ドパミン遊離は、側坐核Shell吻側領域で引き起こされ、痛み刺激負荷により当該領域の神経細胞が活性化することが確認された。また、条件付け場所嫌悪性試験法を用いた解析により、ドパミントランスポーター欠損マウスにおいては、痛みによる負情動生起が阻害されていることを見出した。さらに、抑うつ状態を併発していると考えられる慢性疼痛モデル動物においては、報酬刺激によるドパミン遊離亢進が抑制されていることを明らかとした。
著者
西澤 大輔
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

CREB1、CREB3、CREB5、ATF2(CREB2)等の遺伝子領域の遺伝子多型解析の結果、CREB1遺伝子近傍のrs2952768多型に関して、Cアレルの保有者では、非保有者と比較して、下顎形成外科手術のみならず開腹手術の症例においてもオピオイド鎮痛薬必要量が多かった他、覚醒剤依存症患者において多剤乱用者が少なく、アルコール依存症患者において薬物乱用者が少なく、また摂食障害患者においては、薬物依存症を合併している患者が少ないなど、この多型が物質依存重症度を示す指標と関連することがわかった。さらに、この多型のCアレルのホモ接合の保有者では、CREB1遺伝子のmRNA発現量が有意に多かった。
著者
石川 享宏
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小脳は運動学習において重要な役割を担っていると考えられ、学習すなわち入出力関係の調節は、下オリーブ核から小脳皮質に投射する登上線維入力によって制御される。したがって登上線維入力の生成メカニズムを明らかにすることができれば、小脳を介して適応的に運動を調節・制御する脳内メカニズムの理解が大きく前進すると期待される。本研究の目的は下オリーブ核に情報を伝達する神経回路と、それらの情報によって登上線維入力が生成される生理学的なメカニズムを解明することである。当該年度においては、小脳の中でも特に大脳皮質との間にループ状の神経回路を形成する大脳小脳に注目し、まず始めにマウスを用いて大脳運動野や末梢神経の電気刺激に対する応答を調べた。その結果、大脳小脳の一部であるCrus Iにおいて、両方の刺激に対して登上線維入力に伴う複雑スパイクが生じるプルキンエ細胞が多数観察された。刺激から応答までの潜時がほぼ同じ(12 msec)であることから、Crus Iに登上線維を送る下オリーブ核の一部(主オリーブ核)において中枢および末梢からの入力が同一の細胞に収束していると考えられる。そこで脊髄の一部(C5-7)に順行性の神経トレーサーを注入したところ、主オリーブ核の一部に直接投射していることが確認された。従来、主オリーブ核は主たる入力を大脳皮質から赤核経由で受けるとされてきたが、実際には脊髄からの直接入力も受けており、電気生理実験の結果が示すように大脳小脳において運動時には運動指令と感覚フィードバックのいずれに対しても登上線維入力が生成されうることが示された。
著者
内原 俊記 織茂 智之 橋本 款 和田 昌昭
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒト剖検脳のαシヌクレインは軸索遠位から神経細胞体へ向かって進展する点で、樹状突起から細胞体へ進展するにつれて4リピートから3リピートへ変化するタウとは異なることを示した。これを反映して、レヴィー小体病では軸索末端が早期から脱落し、これをとらえる MIBG心筋シンチグラフィーが高い診断特異性を有する病態背景を明らかにした。さらこれらの病変の光顕像と免疫電顕像を直接対比できる新たな手法を開発した。今後分子機序との関連を追及するのに強力な手段となる。