著者
真山 茂樹 石川 依久子
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

珪藻における葉緑体核様体の分布様式をDAPI蛍光染色法を用い16属50種について調べた。その結果Pinnularia,Nitzschia,Stauroneis以外の属の種では葉緑体核様体の分布様式はリング型であったが,これら3属ではリング型の核様体以外に葉緑体内に顆粒状にあるいは線状に多数散在するするDAPI蛍光が認められる種も存在した。Pinnularia種のDAPI蛍光顆粒は,DNase処理により蛍光を消失するため,DNA含有体であることが確証された。また共焦点レーザ顕微鏡による観察,およびテクノビット法を用いた観察から,このDNA含有顆粒は葉緑体の内部に存在することが確証された。さらに,透過型電子顕微鏡による細胞切片の観察から,これらDNA含有顆粒はチラコイド層が継続した部位に相当することが示唆された。また,これらの部位にはいかなる膜構造も認められなかった。細胞から葉緑体を単離し,さらに顆粒状構造体を単離した。この構造体のサイズは単離されたリング型の核様体の個々のビーズ状核様体と等しく,またプロテアーゼK処理によりDNAが拡散した。以上のことより葉緑体内に多数分散する顆粒状構造体はDNAがタンパク質と複合体を形成している核様体であると考えられる。Pinnulariaではリング型の葉緑体核様体のみをもつものが11種,リング型と分散型を併せ持つものが9種,分散型のみ持つものが1種認められたが,後2者はP.sect.PinnulariaとP.sect.Divergentissimaにのみ観察された。また,Nitzschia sigmoideaの葉緑体には短冊形のピレノイドが多数存在することがプロピオンカーミン染色によって確認された。このピレノイド断面は薄いレンズ型であった。また間接蛍光抗体法および免疫電顕法により,この部位におけるRubisco局在が確認された。本種の葉緑体の周辺部には核様体は存在しなかったが,ピレノイドの両側に線状に配列するDNA含有領域,すなわち核様体が存在した。珪藻の葉緑体核様体の配置は被殻同様多様であり系統を反映していることが考えられる。