著者
川根 正教 石川 功 植木 真吾
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.12, no.20, pp.111-133, 2005-10-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
21

寛永通宝は,江戸時代を通じ数次にわたって鋳造された近世の代表的な銭貨である。文献資料から鋳造年代がある程度判明していること,各時期に鋳造された寛永通宝にはそれぞれ形態的特徴が認められることから,考古学的手法によって分類・編年を行うことにより,遺構や遺物の年代を推定する資料として有効な活用を図ることができる。また,文献史学・経済史学や自然科学などとの学際的研究を行うことによって,流通や銭貨製作の具体的様相を理解することも可能となろう。本稿では,千葉県三輪野山道六神遺跡B地点の近世墓から発掘調査によって出土した寛永通宝銅銭を研究対象資料とする。同一時期に鋳造された寛永通宝には様式(style)という概念を,彫母銭を同一とすると考えられる寛永通宝には型(pattern)という概念を与え,寛永期から元文・寛保;期までに鋳造された寛永通宝銅銭を文字形態などによってIa様式・Ib様式・IIa様式・IIb様式・IIIa様式・V様式の5様式に大分類し,同時に判明する資料については型分類を合わせて行なった。そして,分類した様式及び型について,計測値による形態的特徴の検討,金属成分分析による元素組成の特徴を検討した。その結果,各様式と各型は輪・郭の径及び重量などに固有の形態的特徴をもち,また銅・錫・鉛の主要元素や鉄・砒素・アソチモソなどの微量元素からなる元素組成の特徴も,各様式及び各型に認められることが判明した。このことから,各時期に鋳造された寛永通宝の銭貨としての品質的特徴は,該期の鋳造技術の水準や金属生産量と関連しつつ,貨幣経済発展に対応する幕府の銭貨政策を極めて端的に反映していることが明らかになった。