著者
石川 広己 石川 広己 渡邉 大記 江崎 禎英 大山 永昭 屋敷 次郎 山本 隆一
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-34, 2019-07-05 (Released:2020-07-08)

[セッション抄録] 改めて医療等分野に係る個人情報保護のあり方を考える―公益と個益の視点から― 石川広己(日本医師会) 大量の個人情報を集めることができる時代,その情報を分析することで経済活動に活用したり,新たな知見を得たりする取り組みが世界中で行われている.一方で,国民の権利,利益を守るための保護のあり方も同様に議論がなされている. とりわけ,健康・医療・介護に係る情報に関しては,一層の保護措置が必要との認識は世界共通である.例えば,2017年5月に全面施行された改正個人情報保護法では,病歴を要配慮個人情報として,本人同意を得ない取得を禁止している.2018年5月に適用が開始されたEU一般データ保護規則(GDPR)でも,第9条のProcessing of special categories of personal dataで健康に関するデータの取扱いを制限している. このように,健康・医療・介護等の情報の保護の重要性は誰もが強く認識してはいるものの,国民の目線からは十分に保護されるのか不安が生じる.最近の医療情報分野におけるKey wordを挙げてみると,「保健医療記録共有サービス」,「情報銀行」,「次世代医療基盤法」,「被保険者記号番号の個人単位化」などがある.これらは,医療等分野に係る情報を関係者で共有することで適切な医療を提供することを目指す,情報を活用して,その便益を個人に還元する,医療分野の研究開発に生かす,個人の健康・医療に係る情報を生涯に亘り追いかけることで健康寿命の延伸に資することができるなど,多くの可能性を持っている.これらの可能性を探ることは,少子高齢時代を迎えるわが国にとって極めて重要な問題である.ただし,これを実現するには明快で十分な説明の上で,国民一人ひとりの理解と協力がないと実現は難しい. そこで,医療等分野に係る個人情報の保護を通して,改めて公益と個益,またそれを実現するための様々なインフラのあり方について識者を交えてディスカッションを行いたい.
著者
石川 広己 田尻 泰典 山本 隆一 上村 昌博 高木 有生
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.337-351, 2016 (Released:2017-08-14)

日本国民一人一人の所得の正確な捕捉,税の徴収,社会保障分野での公平な分配などを目的として作られたマイナンバー制度は,平成27年10月にマイナンバーの通知が始まり,平成28年1月からはICチップ付きのマイナンバーカードの配布が開始されている. この制度に関しては,計画段階からマイナンバーを医療・介護分野にも導入することが提案されていた.実際,平成21年の民主党政権時代には,医療の現場での利用について,医療現場にいる三師会(日本医師会,日本歯科医師会,日本薬剤師会)にヒアリングが実施された. しかし,三師会は当時から「医療情報は機微性が高く,特に遺伝子情報が加わる時代では,漏洩することによって個人の差別や人権問題にも発展しかねない」という主張を医療現場に関わる立場から出し,マイナンバーを医療・介護に持ち込むことに反対をしている.現在でもその主張に変わりはなく,マイナンバーが医療・介護分野で使われることがないように細心の注意を払い続けている. また,マイナンバー制度導入の際に並行して,個人情報保護法の改正に関する議論が行われ,これも改正個人情報保護法として平成27年9月に公布された.現在,公布から2年以内の全面施行に向けて省令等の細部の運用が検討されている. マイナンバー制度導入の議論と相まって,ここ数年,医療・介護の現場ではICTを用いた情報連携が進んできている.この際,医療・介護の情報連携においても個人を一意的に認識できる番号があればさらに合理的,簡便にできることは明らかである. したがって,三師会が中心となり,国民の個人情報を守りながら活用できる,医療等分野専用の番号制度のあり方を検討した.その結果,この番号制のあり方については,政府の方針でも,マイナンバーと切り離すことを前提として「医療等ID」として明記され,厚生労働省を始め医療現場の代表を入れて具体化に向けた議論を進めている. 本企画では,今までのマイナンバー導入と改正個人情報保護法に関しての議論と今後の医療等IDの実現に向けての課題に関して各方面からの報告を受け議論したい.