著者
石村 久美子
出版者
岡山県立大学
雑誌
岡山県立大学保健福祉学部紀要 (ISSN:13412531)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.41-51, 2007

健康増進法第2条によって自らの健康増進が国民の責務となった今、人々の生命・健康を守るとは、どのようなことだろうか。健康に価値を置く一方、不健康には不利益を容認することは健康を強いることであって、主体的な健康を涵養することにはつながらない。ところが、医療費抑制を主眼とする昨今の医療制度改革によって、所得による生活格差が生命・健康の領域にまで格差を及ぼしている。無保険者の増加やいのちの経済化は、根源的な平等感の喪失と将来の懸念を増すばかりである。今、多くの国民が望んでいることは、だれもが必要なときによりよい医療を受けられる安心である。そのためには、貧富の差による「健康の不平等」を容認せず、健康阻害を招くような医療費抑制ではなく、平等・公正・質の高い医療を提供するために、公的責任に値する財源の投入をしなければ解決できない問題であると考える。