著者
石田 尚敬
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

本年度は、研究の開始にあたり、インド仏教最後期の論理学者モークシャーカラグプタ(13世紀頃)の綱要書、『論理の言葉』について、これまで出版されたサンスクリット語校訂テキストを可能な限り収集し、調査した。その結果、手書き写本を参照し、そこに見られる異読等を検討したものは、バッタチャリアにより校訂されたGOS(Gaekwad's Oriental Series)版(1942年)と、アイヤンガーによるマイソール版(第2版、1952年)のみであることを確認した。それ以外の校訂本は、それまでに出版された校訂本を参照し、訂正を加えたに止まっている。さらに、『論理の言葉』原典写本の研究も開始し、カンナダ文字で書写されたマイソール写本、ナーガリー文字で書写されたパタン写本(2本)について、これまでに撮影したカラー写真を用いて解読した。これらの写本の系統関係などは、校訂テキストの序文に記載する予定である。また、本年度の研究期間中、科学研究費補助金を用いてグジャラート州、ヴァドーダラー市にあるバローダ東洋学研究所を訪問した。同研究所では、『論理の言葉』写本について、カタログに記載のある4点すべてを、現物を手にして調査することができた。調査の結果、うち2点は、20世紀初頭に作成されたと思われる、パタン写本2本(上述)の複製(写真)であることが判明した。それらは経年劣化が進んでいるものの、報告者が2009年に撮影した時点の同写本よりも破損による欠落箇所が少なく、資料として有用である。さらに、うち1点は、パタン写本の複製を用いて新たに作成されたと思われる、ナーガリー文字による手書き紙写本であり、残りの1点は、おそらくGOS版出版のために用意されたと思われるノートであった。本年度の調査により、『論理の言葉』の資料状況は、これまでに所在が知られているサンスクリット語原典写本も含め、ほぼ明らかとなった。