著者
石野 聖
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.46, 2011

1.はじめに 発表者が勤務していた中学校の1年生全員を対象に、3学期の学年行事である『実力テスト』において日本の白地図に都道府県の正確な位置と名称を答えさせる問いを出題した。47すべての都道府県についての問題である。その結果を元に、次の2点に注目してみた。(1)都道府県ごとの正答率の対比―解答については、正確な漢字で書いているか平仮名か。誤答については、他県名を書いているか誤字か空白か。(2)今回の正答率と定期テストの得点率との対比―「この分野は得意」という生徒が散見されたため、小学校6年時の担任が社会科専攻かどうかを調べた。以上から、地理的分野の学習(県名認知を例に)において、現在の教育現場では具体的にどのような指導が必要なのかを考察する。2.白地図テスト実施までの流れ 発表者が勤務していた中学校は、大阪府門真市にあるE中学校(公立)である。この中学校では、S小学校、K小学校、H小学校(いずれも公立)の3小学校の卒業生を受け入れている。 毎年1月に、中学1・2年生の学年行事として、『実力テスト』を国語・社会・数学・理科・英語の5教科において実施している。それぞれ既習の範囲内で各教科50分出題される。中学1年生の社会科では、主に世界地理と日本地理(地形図)の出題が中心である。 試験対策については、基本的には『実力テスト』と銘打っているので、通常の定期テストのように事前に範囲を指定し、課題等を渡しておいて受験させるという流れではない。しかしながら、白地図問題が含まれるため、冬休み用課題として47都道府県をすべて記入するプリントを配布しておいた。 3学期開始後、課題の自己採点を行うための解答を生徒へ配布した。その際、「次の実力テストに、都道府県名を答える問題を出題する。」ということを明言しておいた。3.テスト結果について テストは大問6問で、世界地理(全地域)、日本地理(地形名)、都道府県の白地図で構成される。白地図問題の解答条件では、○(=正解)とするには、一定の基準を設けている。まず、**府、**県など漢字できちんと答えること、平仮名は一部でも△(=減点)、誤字は×(=誤答)として扱った。府・県などが抜けた場合は、漢字が正確でも×とする。このような条件で、47都道府県すべてを出題した。 受験者は、1学年6クラス204名であった。平均正答数は47問中、23.2問(49.4%)であった。 県別正答率でみると、北海道、青森、大阪、沖縄、岩手の順で高く、地方別では北海道を除くと、近畿地方、東北地方、中国地方の順に高い。逆に県別誤答(不正解)率でみると、茨城、栃木、福岡、神奈川、新潟の順で高く、地方別では、関東地方、四国地方、中部地方の順に高い。 誤答率の高い県の記述例をみると、茨城では「茨木」「?(誤字)城」、栃木では「群馬」「?(誤字)木」、福岡では「大分」や他県名の記述が多かった。また、平仮名での解答が多かった県は、岐阜、新潟、鹿児島、栃木、埼玉である。これらは、小学校の国語科で習得しない漢字を含んでいる県名である。 今回の「都道府県名を答える問題」が社会科の他分野に比して得意かどうか、正答率対比の値を算出して調べてみた。もとより社会科の得意な生徒もいるので単なる正答率で比較するのではなく、47問の大問正答率を年間5回の定期テスト得点率(平均)で割ることによって値を求めた。その結果、学年平均の値は0.92であったが、それを上回る生徒数は102名であった。 引き続きこれらの値を利用し、出身小学校と旧担任(6年時)との関係を調べると、旧担任ごとの正答率対比の値にばらつきがみられる。これは、社会科を専門とする担任の指導による影響も考えられる。4.考察 白地図問題を実施し、全都道府県を答えさせることによって、各県の正確な場所、名称の記憶について各生徒の県名認知の現状が把握できた。誤答の主な原因としては、正しい漢字が書けないことと、他県との誤認である。それぞれ、特定の県に集中している。 普段の学習には消極的だが、県名を答えるなら得意という生徒が少なからずいることがわかった。小学校時に受けた指導が影響しているかどうかは、具体的な聞き取りなどで調査しており、発表時に報告したい。