著者
石野 貴久 寺田 珠実 鮫島 正浩 鴨田 重裕
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.45-58, 2012-02-25

イチイ属樹木特有の抽出成分として知られるタキソールは,幅広い癌に効果のある強力な抗癌剤であるが,供給不足のため依然として高価な薬剤である。この供給不足解消の新たな手段として,内生菌の利用に着目した。イチイに加え,同じイチイ科であるカヤの内生菌の単離同定を行い,そのタキソール生産可能性についてタキソール生成酵素遺伝子の有無という観点から検討を行った。まず,イチイからは一Phomopsis属を中心に10種類の菌が,カヤはXylaria属を中心に11種類の菌が単離された。次に,既知のタキソール生合成関連酵素の内,特に利用性の高いTXS(taxadienesynthase), BAPT(3-amino-3-phenylpropanoyl-13-O-transeferase),TαH(taxadiene 13α hydroxylase)という3つの酵素遺伝子の存在可能性を,ドットプロットハイブリダイゼーション法を行うことで調べ,一次スクリーニングとした。その結果,イチイ内生菌[Collelotrichum gloeosporioides],[Paraconiothyrium microdiplodia],カヤ内生菌[Xylariaceae sp, Cordyceps diplerigene],[Sordariomycete]の4菌種において,3種全てのプローブでハイブリダイズした。このうち,カヤ内生菌のCordyceps dipterigeneに注目して,サザンハイブリダイゼーションを行ったところ,上記3種の酵素のプローブでバンドが確認できた。その部分をゲル抽出してテンプレートとし,PCRを行い,塩基配列を読んだところ,上記3つの酵素遺伝子と95%以上の高い相同性を示し,タキソール生成酵素遺伝子を有する微生物を初めて発見することができた。