著者
磯山 甚一
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-26, 2002-10-01

前回はロビンソン・クルーソー物語が今日のわが国で「絶海の孤島」物語として読まれていることを明らかにした。しかし実際にはロビンソン・クルーソーの島は大陸沿岸のカリブ海に位置しており、その島における物語は18世紀カリブ海言説と考えるべきである。今回は、そのカリブ海言説としての物語が近代世界のなかでどのように読まれ、わが国では「絶海の孤島」物語となってきたかを検証する。そのためにまず、題名にある 'adventure' という語が日本語で「冒険」と訳された事実に注目する。その事実にどのような暗示があるか、'adventure' と「冒険」のそれぞれが持つ意味を確認する。そして両者の意味を比べると、訳語の「冒険」は 'adventure' のそなえる意味の一部を伝えるにすぎないこと、ロビンソン・クルーソー物語について、それを「冒険」物語として、あるいは 'adventure' 物語として読むかぎり、彼の島における生活について語ることはできないことを明らかにする。
著者
磯山 甚一
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.25-56, 2001-01-01

1983年に開園した東京ディズニーランドには,「カリブの海賊」という名称の人工空間が造営されている。それを一つの例として,今日の日本には「カリブ海域」に関わる言説が多方面に見られ,英文学史上の小説作品として知られる『ロビンソン・クルーソー』もその一つである。ところがロビンソン・クルーソーの物語のテクストは,17世紀後半のカリブ海域をめぐる言説であることが隠蔽されて今日の日本に流通している。ロビンソン・クルーソーの暮らす島が「絶海の孤島」であるというのは,何かの理由によってつくりあげられた思い込みによる誤解である。コロンブスの新大陸「発見」を契機にして西ヨーロッパの列強が新大陸に競って進出し,全地球を巻き込む「近代世界」というシステムをつくりあげた。そのシステムの形成過程のなかに位置付けることによってロビンソン・クルーソー物語を理解することが重要である。