著者
神江 沙蘭
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の春から夏にかけて、欧州の通貨・金融分野において、金融市場での欧州単一パスポートの導入や共同通貨ユーロの導入等の市場創出的統合が加速したのに対して、監督規制改革等の市場修正的な統合がなぜ遅れたかという点を、1990年代のグローバルな国際金融規制(バーゼル委員会での議論等)の流れを踏まえて分析した。そこでは特に米国等の域外の経済大国との競争的関係が、域内で必要とされた金融ガバナンスの構築にどう影響したかを検証している。その成果の一部は、6月に香港で開催された国際問題研究学会(International Studies Association:ISA)で報告し("Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?")、共著本(『Middle Powers in Europe and Asia』eds. Giacomello and Verbeek)の執筆担当章の草稿に取り入れた。当該年度の秋からはユーロ導入によってインフレ調整や経済政策の調整がより困難になった点をECBの設立が市場での期待形成に与えた影響という観点から分析し、これが分権的な金融監督体制の下にあった欧州金融市場でのリスク膨張に繋がった可能性について検討した。また、ユーロ危機を経て、ECBが金融安定化や市場回復に積極的な役割を担う等、ユーロ圏においてサプライサイド政策を重視する従来の傾向に一定の変化が生じた点に着目し、その背景/影響としてドイツ国内政治に生じた変化や摩擦について検討した。2月19日~3月7日にケルンのマックス・プランク研究所(社会科学)において客員研究員として現地調査を行い、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行い、その成果を単著原稿『統合の政治学』の草稿の執筆に取り入れた。