著者
神藤 猛
出版者
横浜国立大学
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.28-39, 2004

ハイパーゲームは、複雑な状況に関与する意思決定者の知覚、主観を考慮すると、ゲームの前提が変わり、その結果、均衡点が異なってくることを明らかにする、ゲーム理論を基礎に考案された分析枠組みである。通常のゲームでは、参加者は全て同じゲームを「同じように」見ていると仮定するのに対し、ハイパーゲームでは、強い相互作用のある同一の意思決定状況を異なって知覚するような場合を取り扱う。これにより現実のコンフリクトの強い錯綜した状況についても、実際的で有効な均衡解を得る意思決定分析が可能になる。本稿では、冷戦時代、キューバへのソ連の核ミサイル配備に端を発するキューバ危機を取り上げ、新たに確認された資料を基に、核戦争の危機による極度の緊張と不正確な情報から、政策決定者の合理性の機能の幅が狭められ、主観的判断が意思決定の中心となりがちであった、当時の錯綜した危機管理の状況をハイパーゲームを通して分析する。特に、相互に危機の回避を希求しながら、自らを守ろうとする力の増強が、この行動から自身を守ろうとする相手の力の増強を招き、その結果、逆に自らの力が相対的に低下し相互に緊張を高めてしまう、危機管理のジレンマとその形成のメカニズムについて検討する。