著者
中野 匡子 金成 由美子 角田 正史 紺野 信弘 福島 匡昭
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.535-543, 2002-06-15
参考文献数
16

<b>目的</b> 医学教育の中で地域指向型教育の重要性が指摘されている。我々は,医学部 4 年生の公衆衛生学実習において,小人数グループでの地域指向型教育を 3 年間実施し,実習の教育的効果の評価を試み,今後の実習の方向性を検討した。<br/><b>方法</b> 1. 実習の概要:医学部 4 年生(70~80人)は小人数(2~3 人)グループに分かれ,福島市周辺の保健・医療・福祉・教育等関連施設で週 1 回(約 4 時間),計 3 回実習した。学生は施設の事業に参加し,体験実習の中から,解決すべき健康問題を把握し,施設の取り組みと今後の課題を検討した。施設実習後,学生は,報告会を行い,グループごとの報告書と,個別の自由記載の感想文を提出した。<br/> 2. 評価:平成11年度 4 年生73人(男42人,女31人,平均年齢23.6歳)について,実習の教育効果の評価を行った。1) 報告書の中で学生が挙げた「解決すべき健康問題」と,自由記載の個別の感想文を分類し,実習目的の理解度をみた。2) 社会意識の測定方法である ATSIM (Attitudes Toward Social Issues in Medicine)質問表を用い,実習前後の得点の変化を検討した。ATSIM 質問表は 7 群(社会因子,医療関係者間の協力,予防医学の役割,医師-患者関係,政府の役割,進歩対保守主義,社会への奉仕に対する意識)から構成され,得点が高いほど社会意識が高いと評価される。<br/><b>結果および考察</b><br/> 1. 報告書の中で取り上げられた健康問題は,精神障害者の社会復帰のための環境整備,難病患者の在宅支援,学校での養護教諭と担任らの連携,知的障害児の地域生活のための環境整備などであった。また,個別の感想文においては「現場を体験・実感できた(73人中60人,82.1%)」,「医師として地域の人々や施設とどう関わるか考えることができた(26人,35.6%)」,「予防の必要性に気づいた(4 人,5.5%)」,「回数の増加を望む(5 人,6.8%)」等の意見がみられた。<br/> 2. ATSIM の得点は,7 つの群の各々および総計の平均点に,実習前後で有意な差はみられなかった。<br/><b>まとめ</b> 学生は施設での体験の中から地域の健康問題を把握した。個別の感想文では実習の意図を理解し実習に肯定的なものもみられた。ATSIM 質問表で測った社会意識には,実習の前後で有意な変化はみられなかった。今後,施設の選定,実習時間,学内での討論方法,評価法などに修正を加え,「公衆衛生の精神を体得した」医師養成のために,より有効な教育形態としていきたい。