著者
福本 和貴
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年、合成金属触媒をタンパク質内部空間に導入した人工生体触媒が注目されている。この人工生体触媒では、タンパク質を3次元の優れた化学反応場として扱うことで、反応の立体選択性を実現することが可能となる。しかし、立体選択的な炭素―水素結合の活性化や炭素―炭素結合形成等、より魅力的で困難な触媒反応を実現した人工生体触媒は殆ど無い。そこで本研究者は、前年度までにユニークなタンパク質空孔を有するニトロバインディンを用いて、約65%のトランス体ポリフェニルアセチレンを得ることを見出し、タンパク質が反応の立体選択性に影響を及ぼすことを示した。本年度は、より高い立体選択性を実現するために、活性中心近傍のタンパク質内部空間に対して、詳細に再設計した10種類の異なる人工生体触媒を調製した。特に得られた人工生体触媒のうちのひとつに関しては、結晶構造解析にも成功し、ロジウム錯体がタンパク質内部空間に堅牢に収まっていることが確認された。さらに、それぞれ10種類の人工生体触媒を用いて、反応条件も最適化したうえで重合反応を実施し、得られたポリマーの立体選択性について評価したところ、トランス選択性を約80%に高めることを達成した。次に、MD計算を用いてタンパク質内部空間における金属錯体の挙動を解析し、人工生体触媒が調製したポリマーの立体選択性と比較検討したところ、ポリマーのトランス選択性の向上には、"ロジウム錯体が安定に位置することが可能で"かつ"モノマーの活性中心へのアプローチをコントロールできる"適切なタンパク質内部空間をもつ人工生体触媒が必要であることが明らかとなった。