著者
福本 景太
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションおよび相互関係における障害と、限定的な反復行動等の行動異常を有する神経発達障害である。我々は以前、ASD様行動を示すモデルマウスに共通して、大脳皮質のスパイン動態に異常があることを明らかにした。しかしこれまで、ASDにおいてスパイン動態の異常を誘引する分子メカニズムは明らかになっていない。そこで我々はASD患者において頻繁にみられるヒト染色体15q11-13領域の重複を模したモデルマウス、patDp/+マウスを用いてスパイン動態へ影響する分子の探索を行った。本重複領域には4種類の父性染色体由来発現遺伝子、Mkrn3、Ndn、Magel2、Snrpnが存在するが、これらがスパインへ及ぼす影響は不明であった。最初に、大脳皮質第II/III層の錐体細胞へ4つの標的遺伝子を各々過剰発現し、生後3週齢でスパイン動態の計測を行った。その結果、Ndn過剰発現群ではスパイン形成が促進され、逆にNdn KOマウスではスパイン形成が阻害されていた。次にスパインを形態的に分類した結果、Ndn過剰発現群では未成熟なスパインが増加しており、Ndn KOでは逆の影響がみられた。さらに電気生理学的解析から、Ndn過剰発現群ではmEPSPの振幅と頻度の減少がみられた。次にpatDp/+マウスの大脳皮質を用い、シナプトソームのプロテオミクス解析を行った。その結果、patDp/+マウスにおいて数十種類の蛋白質が変動しており、その中でもStau1とTom1に関しては、 Ndn KOマウスの大脳皮質において、遺伝子発現量が変動していた。以上の結果から、NdnはStau1やTom1などの分子を制御し、未成熟なスパインを増加することで正常なシナプス形成を阻害すること、その結果、神経の電気活動に影響を及ぼすことで、ASD発症に関与している可能性が示唆された。