著者
浅野 大喜 福澤 友輝 此上 剛健 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1002, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】何らかの障がいを抱える子どもの親は,育児に対するストレスが高く,それが養育態度に影響することが知られている(眞野ら,2007)。また親の養育態度は子どもの行動にも影響を与える(Williams, et al., 2009;Rinaldi, et al., 2012)。本研究の目的は,身体および知的障がい児の母親の養育態度について調査し,定型発達児の母親の養育態度と比較すること,また母親の養育態度と障がいをもつ子どもの問題行動との関係について調べることである。【方法】対象は,身体障がい児や知的障がい児をもつ母親32名(以下,障がい群)と定型発達児の母親48名(以下,定型発達群)の計80名である。除外基準は子どもが3歳未満の場合,子どもの移動能力が屋内自力移動困難な場合とした。養育態度の評価は,Robinsonら(1995)の養育スタイル尺度をもとに中道・中澤(2003)によって作成された16項目(“応答性”の養育態度8項目,“統制”の養育態度8項目)を使用し,5段階のリッカート尺度で母親に回答を求めた。得られた結果に対して確証的因子分析を行い,“応答性”4項目,“統制”4項目が抽出されたため,それらの平均値をそれぞれの養育態度の指標とし,2群間で比較した。また,障がい児の問題行動を調べるために,子どもの行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)を用いて母親に評価の遂行を要求し,得られたものから内向尺度(内在化行動),外向尺度(外在化行動),総合点のT得点を算出した。そして,子どもの問題行動と母親の養育態度,子どもの年齢との関係について調べるため,問題行動を目的変数,子どもの年齢と母親の応答性,統制の各養育態度を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】両群の子どもの年齢,男女比,第一子の割合に有意な違いはなかった。母親の養育態度の比較では,応答性の養育態度に2群間で違いはなかったが,統制の養育態度は障がい群が定型発達群よりも有意に低かった(p<0.01)。重回帰分析の結果,子どもの問題行動全体と有意に関連する因子として統制の養育態度が抽出された(β=-0.40)。また内在化問題行動については,年齢のみが有意な説明変数として抽出された(β=0.37)。【結論】障がい児の母親は統制の養育態度が定型発達児の母親よりも低かった。子どもの問題行動については,年齢とともに内在化問題行動が高くなる傾向があったが,問題行動全体としては母親の統制の養育態度が高いほど子どもの問題行動が少ない傾向が明らかとなった。
著者
浅野 大喜 福澤 友輝 岩見 千恵子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2133, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】重度の痙性四肢麻痺児は,時として強度の全身伸展筋緊張を伴った後弓反張姿勢を呈し,安楽な臥位姿勢をとることができずに睡眠障害や脊椎変形などの二次障害につながりやすい.またその強い筋緊張のために母親が抱くこともまた寝かせることもできずに,子どもだけでなく家族のQOL低下につながる.そこで今回,全身の後弓反張姿勢によりQOLの低下を主訴にもつ2症例に対し,自己身体の認識を目的にダブルタッチ(二重接触)を用いたアプローチを実施し改善が得られたので報告する.【方法】対象は,全身の後弓反張姿勢が2ヶ月以上持続しており,薬物による筋緊張や睡眠のコントロールが困難な2例.症例Aは3歳女児.原因不明の脳炎による痙直型四肢麻痺.症例Bは3歳男児.分娩時の低酸素性虚血性脳症による痙直型四肢麻痺.2例ともGMFCSレベル5,Chailey姿勢能力発達レベルはレベル1で,安静背臥位を維持することができず,後弓反張姿勢が顕著であった.全身的に外部からの接触刺激に対して過敏な状態となっており,常に不機嫌で睡眠も確保できない状態であった.治療仮説としては,接触による自己の身体認識の欠如から体幹背面と床面との関係性が作れない状態と考えられたため,まず手掌に対し弱い接触刺激を受け入れることから行い,徐々に手指の屈筋緊張が緩和されたところで,自分で自分の身体に触れるダブルタッチを可能な範囲で他動かつ愛護的に行った.それにより自己身体部位の位置関係の学習と身体図式の獲得がなされ,環境に適応することが可能になると考えた.ダブルタッチはまず手と体幹,手と口,手と顔周囲,足部と足部からはじめ,筋緊張の緩和に伴い徐々に手と下肢,足と口へと進めた.頻度は外来にて症例Aは2週に1回,症例Bは週1回実施し,可能な範囲で自宅でも行ってもらった.【説明と同意】本発表にあたり,対象児の両親に口頭にて説明を行い同意を得た.【結果】2例ともアプローチ開始から3~4ヶ月後,四肢・体幹の過剰な伸展筋緊張は減少し,抱っこやリラックスした左右対称の背臥位の保持が可能となった.また易刺激性も減少し,睡眠時間の確保が得られるようになり家族のQOLも向上した.Chailey姿勢能力発達レベルはレベル3へと向上した.さらに2例とも下肢の交互性の屈伸自発運動が出現するようになった.【考察】今回,後弓反張姿勢を呈する四肢麻痺児に対し外界との相互作用の入口としての手への接触課題と注意,さらに体幹の身体図式獲得のためのダブルタッチを実施し,体幹の筋緊張制御が得られ,左右対称の背臥位姿勢が可能となった.胎児期や新生児からの身体図式の形成過程として,まず手と口周辺の接触による認識から始まり体幹や下肢の認識へと進んでいくと考えられている.この過程において直接手で触れることのできない体幹背面については体幹・下肢伸展時の子宮壁との接触や,出生後には床面との接触による相互作用の経験が重要な役割を果たしていると考えられ,身体図式形成のためにはダブルタッチや外界との接触経験が重要であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本報告は脳性麻痺児の身体認識という内部表象の形成を目的としたアプローチの症例報告であり,外見上の姿勢評価にとらわれない認知的な視点で評価,治療することの重要性を示唆するものである.