著者
秋吉 嘉範
出版者
Japanese Society of Sport Education
雑誌
スポーツ教育学研究 (ISSN:09118845)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-35, 1987

1) 授業としての陸上運動の教材による好き嫌い, 及び楽しさについて, 児童の認識を明らかにするとつぎのことがいえる。<br>(1) 陸上運動の教材による好き嫌いをみると, 教材別, 性別により, 好き嫌いに差異があるようである。すなわち, 男女とも走り幅とびが好き (男子64.5%, 女子52.2%) が最も多く, ついで, リレーが好きは男子53.4%, 女子46.7%, 短距離走が好きは男子40.2%, 女子32.2%と最も少ない。とくに, 短距離走が嫌いという女子は34.1%であり, 好きを上回っている。<br>(2) 陸上運動の好きな理由は, 短距離走では, 走るのが速いから, いつも勝っているからが多い。リレーは, みんなで協力し団結して走れるからが多い。走り幅とびは, 遠くへとべるから, 走ってとべるから, 記録がすぐわかるからなどが多い。<br>一方, 嫌いな理由は, 短距離走では走るのが遅いから, いつも負けているからが多い。リレーは, 走るのが遅いから, いつもみんなに迷惑をかけるからが多い。また, 走り幅とびは, 遠くへとべないから, とぶのが下手だからが多い。<br>3教材共通していえるのは, 好きな理由と嫌いな理由は表裏一体になっているようである。とくに, 個人の走る, とぶなどの運動能力の優劣がそのまま好き嫌いに直結していることが多い。リレーは, 個人的競技性だけでなく, 集団としての協力性, 競技性が好きな条件となっている。<br>(3) 陸上運動の楽しさを教材別にみると, 授業中に楽しさを感じたものは, 男子では走り幅とびが88.4%と最も多く, ついで, リレー82.5%, 短距離走77.7%である。女子は, リレーの83.0%が最も多く, ついで, 走り幅とび78.5%, 短距離走75.2%である。3教材のなかで, 走り幅とびに性差がみられるようである。<br>(4) 陸上運動の楽しい理由を教材別にみると, 短距離走では, 練習して記録がのびたから, 競走で相手に勝てたからなどが男女とも多い。すなわち, 児童は, 練習して記録を向上させたい, また, 競走 (争) で勝ちたいという認識のもとに運動し, それが達成されたときに楽しみを感じている。<br>リレーは, 自分のチームが勝ったから, チーム全員が協力できたからなどが男女とも多い。すなわち, チームで協力して練習し, 応援し, それが勝利に直結した場合に楽しいといっている。<br>走り幅とびは, よい記録をだすことができたから, 助走や踏み切りの練習をして記録がのびたからなどが男女とも多い。<br>3教材共通しているのは, 陸上運動の教材特性にふれることにより, 楽しさを感じている。しかし, 陸上運動の特性を引き出すのは, 児童をとりまくクラスの雰囲気や交友関係, 教師の助言, 指示, 受容, 賞賛, などが要因となっている。<br>一方, 楽しくない理由は, 短距離走では, 走るのが遅いから, いつも競走で負けてばかりいるからが男女とも多い。リレーでは, 走るのが遅いから, いつも負けてチームの責任を押しつけられるからが男女とも多い。走り幅とびでは, よい記録をだすことができないから, 助走や踏み切りが上手にできないからが男女とも多い。<br>3教材に共通する理由は, 先に述べた嫌いな理由と関連している。<br>(5) 陸上運動の好き嫌いと楽しさとの関係をみると, 3教材共通していることは, 男女とも好きと答えたもの及びどちらでもないと答えたもののほとんどが, 楽しさを感じている。<br>一方, 嫌いと答えたものでも, 男女の約半数が楽しさを感じている。すなわち, 好きだから楽しい場合が多い。しかし, 嫌いだから楽しくないとは必ずしもいえない。嫌いな児童のなかには, 楽しさを求めて学習に取り組んでいるものもけっこう多いのである。<br>2) 陸上運動の指導認識について, 教師の立場から明らかにするとつぎのようなことがいえる。<br>(1) 教師が陸上運動を指導する際に重視する項目は, i力いっぱい活動させる, ii体力をつけさせる, iii運動の楽しさを味わわせる, iv自己の記録を向上させる, vみんなで協力して練習させる, の順である。逆に評価点が低いのは, i競走 (争) に勝てるようにさせる, ii記録や計測のしかたを身につけさせる, iiiきれいなフォームを身につけさせる, などである。このことから, 教師は陸上運動の指導にあたり, 児童に, 力いっぱいに活動させて, 体力をつけさせる。また, 記録の向上をはかることを重点的に認識し, 指導し, 助言している。<br>(2) 教師は児童の陸上運動の授業における楽しさについて, 短距離走と走り幅とびでは, 自己の記録を向上する楽しさが最も多いと認識している。また, リレーでは, チームで協力して競走 (争) する楽しさをあげている。<br>3) 児童と教師の陸上運動に対する認識の分析と指導法について<br>(1) 陸上運動の授業中における楽しさを感じる内容を, 児童は, i練習して記録をのばす, ii競走で勝つ, iiiチームで協力する, を多くあげている。しかし, 教師の指導認識では, i力いっぱい活動させる, ii体力