著者
秋月 千鶴
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ブラックホール候補天体などの周辺で起こる高エネルギー現象を考えるには、磁気流体力学と共に、輻射流体力学の取り扱いは、必須の事項である。しかし、磁気流体に比べ、輻射流体は、定式化がまだ不十分で、そもそも基礎過程自体に研究すべき点が多く残っている。また、数値的手法においては、輻射輸送の数値計算は計算量が膨大であるために、これまであまり研究が進んでいない。そこで、本研究では、輻射輸送流を徹底解明することにより、宇宙ジェットやガンマ線バーストなど、亜光速ジェットに関する物理過程の解明を試みている。今年度は、スリム円盤の研究でよく用いられる輻射流体力学の計算手法であるFlux Limited Diffusion(FLD)近似について検証した。スリム円盤は、輻射力が優勢な円盤モデルのため、正確な輻射流体計算が求められる。しかし、FLD近似では、光学的に中間の状況下で正しい輻射力を計算できている保証がない。そこで、我々は完全な輻射流体計算に向けて、降着円盤構造における3次元輻射輸送コードを開発した。その結果は、FLD近似による結果に比べて、ジェットを収束する方向に働くことがわかった。この結果は、完全輻射流体計算を行えば、これまでの輻射流体シミュレーション結果より、さらなる収束が期待できるまた、FLD近似による輻射力の大きさは、アウトフロー領域では大きく、(円盤領域では小さく)見積もっている可能性があることがわかった。さらに、降着円盤計算でよく用いられるグレイ近似は、アウトフロー領域で輻射エネルギー(輻射力)を低く見積もっている可能性があることがわかった。また、一次元球対称計算用に提案されている変動エディントン因子は、多次元スリム円盤構造には適用できないことがわかった。