著者
秋根 茂久
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

不斉情報の自在な記録を可能にする分子素子の開発を目指し、メタロヘリセンの合成と機能化について研究を行ってきた。本度は、直鎖状オリゴオキシムの末端のベンゼン環部分にアリル基などのらせん固定化部位を導入した配位子を合成し、金属と錯形成させてメタロヘリセンへと導くことを検討した。ここで、金属としては、亜鉛(II)-ランタン(III)や亜鉛(II)アルカリ土類の組み合わせを用いることとした。らせん型金属錯体のらせん構造の固定化について、閉環オレフィンメタセシスによる検討を行ったところ、第二世代のGrubbs触媒を用いた条件で反応が進行した。特に、亜鉛-カルシウムの系では、単離収率64%で環化体が得られた。また興味深いことに、cis体のオレフィンのみが生成していることが明らかとなった。亜鉛-ランタンの場合には副反応が進行するために収率は低下したが、この場合も環化体の生成はcis選択的であった。また、らせん型構造とならない亜鉛(II)ホモ三核錯体の場合は、cis,trans体の混合物(32:68)が得られた。一方、金属と錯形成させていない配位子のオレフィンメタセシスではtrans体が主として生成した。これらの結果から、直鎖状配位子をらせん型金属錯体に変えても十分にメタセシス反応が効率的に進行し、その際に、生成するオレフィンのcis/trans比が逆転するということがわかった。このように、Grubbs触媒を用いた閉環メタセシスが不斉情報保存のためのらせん構造の固定化反応に有用であることを明らかにした。