著者
秋田 学
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

前年度の冬季雷観測において広帯域ディジタル干渉計で雲内雷放電進展路を可視化することにより、電荷構造の観点から冬季雷特有の放電現象発生要因は夏季にはあまり見られない高度数百メートル程度の低高度の電荷領域の存在であることが明らかとなった。このような雷放電進展様相を決定付ける電荷位置の測定はこれまでゾンデに搭載された電界測定装置によって行われてきたが、測定可能範囲は狭く、これに代わる電荷分布測定技術が求められている。米国ニューメキシコ鉱工科大学のグループが開発するLMA(Lightning Mapping Array)は到達時間差法を用いて雷放電路を可視化する装置である。同グループはこれまでにこれを用いて、リーダが負電荷領域と正電荷領域を通過する際の放射パルスの頻度の違いから、雲内の負電荷領域と正電荷領域の推定を行っている。筆者は米国ニューメキシコ州にて広帯域ディジタル干渉計とLMAを用いて雷放電観測を実施した。その結果、放電諸過程のうち、比較的進展速度の遅い過程(10^5m/sオーダ)は、ほぼ同じ放電進展様相を可視化でき、高速で進展する放電現象(10^6m/s-10^7m/sオーダ)については広帯域ディジタル干渉計でのみ可視化することができた。LMAを用いて求めたリーダ極性(電荷領域の極性)と広帯域ディジタル干渉計で受信した電磁波パルスの周波数スペクトルの平均値を比較すると、負リーダ(正電荷領域)からは高周波数、正リーダ(負電荷領域)からは低周波数成分を多く含む電磁波をそれぞれ受信しており、放電諸過程において放射される電磁波の周波数スペクトルに違いが見られた。この受信電磁波の違いを雷雲内電荷分布のリモートセンシングに応用し、ゾンデによって行われてきた電荷分布測定よりも広範かつリアルタイムで電荷分布の情報が得られることが期待され、将来の落雷対策における重要な知見となりうる。