著者
秦 劼
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究課題は証券市場における投資家の行動と情報のあり方を分析し、株価暴落の仕組みの解明を目指します。本年度は投資家のリスク回避度と市場の情報非対称性を中心に考察を行いました。ひとつは、個人が証券を取引する際に、リスクに対してどのような態度を取っているのかを、実験に通して調べました。証券投資にはさまざまなリスクが伴い、投資家のリスクに対する態度は彼からの投資行動に大きな影響を与えます。特に、株価下落が続くと、個人投資家のリスク回避度が急速に高まり、クラッシュに繋がる可能性があります。そこで、大阪大学および中国の復旦大学の関連分野の学者の協力を得て、リスク回避度に関する実験を2005年3月に中国上海で行い、被験者たちのリスク回避度やそれに影響を与える思われる要因についてデータを収集しました。今年度は実験で採集したデータを翻訳、整理、集計し、リスク回避度に影響を与える諸要因を分析しました。もうひとつは、証券市場の情報のあり方が価格形成と市場の流動性に対する影響を考察したものです。従来の証券価格理論は情報の完全性を前提にしていますが、現実の市場では、情報が非対称であり、取引に通じてさまざまな情報が価格に織り込まれていきます。情報のあり方と価格に反映されていくプロセスは、証券市場での価格形成、流動性、安定性と深くかかわっています。本研究課題は、市場参加者の間に非対称情報が存在する場合の取引モデルを構築しました。均衡における最適注文ルールと価格関数を導き、それを用いて市場の流動性と非対称情報の関係を調べました。さらに非対称情報と株価暴落の関連性について分析しました。上記の研究予想より時間がかかり、2005年度中の公表には間に合わず、2006年度中に学術誌に投稿する予定です。