著者
税所 玲子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.2-19, 2022-09-01 (Released:2022-10-20)

本稿では、イギリスのオックスフォード大学にあるロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the study of Journalism)が2012年から行っている国際比較調査『デジタルニュースリポート』のうち、日本の動向を中心に報告する。調査は46の国と地域で、デジタル化の進展によって人々のニュースへの信頼や、ニュースへの接触の仕方がどのように変わっているのかを調べたもので、2022年からNHK放送文化研究所もプロジェクトの一員となった。調査結果では、日本の特徴として、ニュースをソーシャルメディアで共有したり、「いいね」をつけたり、友人らと話をするなど、能動的に関わる人の割合が調査対象国の中で低かった。「ニュースへの信頼」は、全体の平均に近いものの、「自分が利用するメディア」と「その他のメディア全般」への信頼の度合にほとんど差がなく、いわゆる「マイメディア」を持たない日本人の姿も伺えた。ロイター研究所は、新型コロナウイルスの感染拡大など不透明さが増す社会の中で、特定のニュースを避けようとする動きが見られるのではないかとし、これを「選択的ニュース回避」(Selective News Avoidance)と呼んでいる。日本は「選択的ニュース回避」をする人は、世界と比べて相対的に少ないものの、2017年から2022年の5年の間に、数としては倍になっていることがわかった。また、積極的にニュース消費を行っていない、いわゆる「つながっていない」(disconnected)層は、アメリカと並んで世界で最も高い水準だった。
著者
税所 玲子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.32-46, 2021 (Released:2021-09-20)

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、偽情報・誤情報の広がりが喫緊の課題として認識される中、世界の公共放送の代表格といわれるイギリスBBCは、「信頼できる確かな情報の担い手」として、自らの役割と価値を改めて打ち出そうとしている。 本稿は、その取り組みの最優先策として挙げられた「不偏不党の徹底」に焦点をあて、その理念がどのように放送で実践されてきたのか、その変遷を概観した。スエズ危機やフォークランド紛争など、時として権力と激しく対立しながら模索してきたそのアプローチは、デジタル化と多民族化が進む中で、「シーソーのようにバランスをとる」ことから、「多種多様な価値を反映」させるべく、「正確性、バランス、文脈、公平・公正、客観性など」が合わさった多様なものであるべきだとの認識へと進化を遂げる。そして、戦後最大の外交政策の転換と言われるEU離脱によって政治社会が分断し、対立感情があらわになりやすい雰囲気が広がる中で、左右からの批判にさらされたBBCは、再び変革を迫られる。本稿では最後に、これまで視聴者とのエンゲージメントの手段としてきた取材者のSNS発信を制限するなど、新たな実践の形を模索する姿を紹介する。
著者
税所 玲子 広塚 洋子 小笠原 晶子 塩﨑 隆敏 杉内 有介 吉村 寿郎 佐々木 英基 青木 紀美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.22-39, 2021 (Released:2021-04-20)

2021年、世界各国で新型コロナウイルスの予防接種が始まったが、感染力が強い変異ウイルスの出現もあり、感染の拡大は止まっていない。WHOによると感染者の数は1月末までに1億人に近づき、死者は200万人を超えた。世界のメディアは新型コロナやその感染予防策についてどのような発信をしたのか。報道を継続するために組織としてどのような対応をとったのか。浮かび上がった課題は何か。 2月号に続き、コロナ禍に対する海外のメディアの対応を報告する。ヨーロッパ、中東、アフリカの国ごとの動きに加え、メディアが直面した問題をテーマ別にまとめる。