著者
稲垣 健治 喜谷 喜徳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.7, pp.1025-1031, 1986-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
34

抗がん活性白金錯体のDNAへの選択的結合を酵素分解および高速液体クロマトグラフ法で研究した。白金修飾DNAをエキソおよびエンドヌクレアーゼで処理し, 酵素分解産物をHPLCで分離・同定した。結果は隣接グアニン塩基対がDNAにおける優先的白金結合部位であることを示した。d(GpG)と各種白金錯体との反応生成物をHPLCで分離した。光学異性ジアミンを含む白金錯体とd(GpG)を反応させると, 二つのピークがクロマトグラムに現われた。これはジアステレオマーの生成による。また, d(GpG)とmeso-ジアミン配位子を含む白金錯体との反応は二つの反応生成物を生ずる。これはN-Pt-N角を二分するC2軸をもたない白金錯体にみられる。これらの化合物の分離に対する至適条件を示した。1, 2-シクロヘキサンジアミン白金錯体で修飾されたDNAの酵素分解産物はクロマトグラフにおいて四つの主ピークを示す。その内の二つはPt[(1R,2R)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]とPt[(1S,2S)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]である。残りの二つのピークはPt[(1R,2S)-1,2-cyclohexanediamine][d(GpG)]に由来するものである。これらの結果はキラルなジアミン配位子を含む白金錯体のDNAへの結合様式を暗示している。