著者
稲垣 奈都子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

多様性の高いゲノムを有するエイズウイルスの中で比較的保存性が高いゲノム領域にコードされるGagカプシドタンパク(CA)の構造上の制約を知ることは、ワクチン抗原デザインや抗HIV薬開発に有用である。私は細胞傷害性Tリンパ球の認識に影響するCAの1アミノ酸置換を有する変異体の解析を行い、CAのN末端ドメイン内のある1アミノ酸とC末端ドメイン内の1アミノ酸の相互作用がウイルス複製に重要であることをin vitroおよびin vivoの両視点から明らかにした。具体的には、今年度は、構造的な相互作用を探るため、現時点で報告されているHIV-1のCA構造を基にSIV CAの構造シミュレーション解析を行った。Gag205はGagがコードするCA内のNTDに位置するのに対し、今回新たに見出された代償性変異Gag340はCAのCTDに位置しておりCA六量体構造シミュレーション解析により両者のアミノ酸の分子間相互作用が示唆された。更にin vitro core stability assayを用いてCAコアの安定性を検討したところGagD205E変異によりコアの安定性が低下し、GagV340M追加変異により回復することが示され、CA六量体での分子間相互作用を支持する結果が得られた。また、MHC-Iハプロタイプ90-120-Ia陽性サルのSIVmac239感染慢性期に、GagD205E+GagV340M変異が選択されることを見出した。培養細胞でのSIVmac239Gag205E継代実験でGag205Eから野生型のGag205Dに戻るのではなくGagV340Mの追加変異の出現を認めたが、同様にサル個体においてもGagD205E+V340Mが選択された。このことは、Gag205D-Gag340VおよびGag205E-Gag340Mの相互作用の存在、つまりCANTDのGag205番目とCA CTDのGag340番目間に機能的相互作用の存在が示唆された。本研究は、CAドメイン間の機能的相互作用のための構造上の制約を提示するものである。