著者
稲場 斉 大友 和夫
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

はじめに:大腿骨頸部骨折は高齢者では転子間骨折が多く、比較的若い年齢層では内側骨折が多いと言われている。また、Fankelらは大腿骨頸部への合力の方向により、骨折部位が異なるとしているが、年齢による骨折部位の差異は明らかになっていない。そこで大腿骨頸部近傍の骨密度を測定し、荷重試験による大腿骨頸部の骨折の部位との関連を調べた。材料および方法:秋田大学医学部解剖学教室にて、解剖用屍体10体(54-91歳、平均73.7歳)の両側より採取した大腿骨20本について、それらの単純X-Pにて骨稜構造を検索し、さらにQCTにて骨頭部、骨頭下部、転子部、転子間部および転子下部での皮質および骨髄の骨密度を測定した。その後、大腿骨を骨ホルダーに石膏にて固定し、インストロン荷重試験機8501にセットして骨折が生じるまで圧縮荷重をかけた。結果:各部の骨密度の平均値は骨頭中心部、骨頭下部および転子部の骨髄でそれぞれ、417.9 127.2、371.9 182.5および97.3 54.2(mg/cm)、転子間部および転子下部の内側の皮質骨でそれぞれ1155.0 172.6 1237.9 170.3(mg/cm)であった。それらの値の間には転子部を除いて比較的良い相関関係が見られ、特に骨頭中心部、転子間部および転子下部の骨皮質の骨密度の間に強い相関がみられた。骨折が生じた時の荷重は178.3kgから849.6kgで、それらの平均値は556.4 224.2kgであった。骨折部位は骨頭下8、転子部10および転子間2であり、骨密度と骨折部位との関連は明らかでなかった。考察:今回の実験より、大腿骨頸部骨折の部位は単純な荷重方法では骨密度と関連しないことがわかった。したがって、骨折部位は作用する外力の種類にも影響されると考えられ、さらに荷重方法を変えて研究を進めてゆきたい。