著者
稲田 洋 勝村 達喜 藤原 巍 土光 荘六 元広 勝美 木曽 昭光 野上 厚志 正木 久男 中井 正信
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1659-1665, 1984-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
21

川崎医科大学胸部心臓血管外科において過去8年間に緊急手術を施行した破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤症例は9例であり,これを同時期に待期手術を施行した腹部大動脈瘤症例44例との比較を行い,破裂ないし切迫破裂性腹部大動脈瘤の外科治療上の問題点を検討した. 緊急手術例のうち入院後即刻手術を施行しなかったのは2例であるが,うち1例は経過観察中にショック状態となり,また他の1例は切迫破裂の症状が増強したため結局緊急手術を施行せざるを得なくなった.また術前破裂および切迫破裂と考えられた症例は各々4例と5例であり,手術死亡率は破裂例,切迫破裂例,緊急手術例で各々50%, 20%, 33%であり,これに対し待期手術例では0%であった.また生命表法による術後7年累積生存率は緊急手術例で16.7%, 待期手術例で73.2%であった.手術死亡原因では急性腎不全2例,出血1例で,遠隔死亡原因では吻合部縫合不全に起因するものが4例中3例を占めていた.また非特異性炎症性動脈瘤が9例中3例あり,しかもその3例中2例が上記原因にて遠隔死亡した. よって今後の手術成績の向上のためには破裂と考えられる症例のみでなく切迫破裂と考えられる症例にも入院後即刻緊急手術を施行すべきであり,その手術は迅速かつ出血を可及的に少なくするよう努め,また炎症性動脈瘤と考えられる症例には手術方法と手技の工夫,慎重な術後管理が必要と考えられる.
著者
田淵 篤 正木 久男 稲田 洋 森田 一郎 石田 敦久 菊川 大樹 遠藤 浩一 村上 泰治 藤原 巍
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.260-263, 2000

症例は26歳, 男性. 3年前にアメリカンフットボールの競技中に左膝靱帯損傷をきたし, 保存的加療を受けた. 2カ月前から左足の冷感, 知覚障害を自覚し, 当科に入院した. 大腿動脈造影では左膝窩動脈の高度狭窄, 前脛骨および後脛骨動脈の閉塞が示された. CT, MRI検査では左膝窩動脈内腔に突出した腫瘤, 解離などが考えられた. 手術は後方到達法で施行, 左膝窩動脈外側からの圧排はなく, 切開を加えると狭窄部位は白色血栓であった. 血栓を摘除し, 膝窩動脈切開部は自家静脈にてパッチ閉鎖した. 狭窄性病変の病理組織学的所見は, フィブリンを主体とした器質化血栓および内膜からなり, 血栓および内膜内に肉芽組織の進入が観察された. 本症の成因として鈍的血管損傷後の治癒過程で壁肥厚, 血栓形成をきたし, 狭窄したと考えられた. 術後経過は順調であった.