著者
窪田 知子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、これまでの訪英で得られた資料を分析の対象として、イギリスの文脈に沿いながら、インクルージョン概念の整理と概念規定を行うことを目的としていた。そこで、インクルージョンについて理解する上で新たな視点を提供するセバらの「プロセスとしてのインクルージョン」というとらえ方に着目して考察を行った。その成果は、平成19年10月に行われたSNE学会で発表した。また、平成20年5月に同学会の研究紀要(SNEジャーナル)に投稿予定である。本年度の研究では、インクルージョンの先進的な実践としてスキッドモアが紹介しているイギリス南西部のダウンランド校の実践例を取り上げ、同校が、学習上の困難をもつ生徒への対応を発展させていく中で、どのようにインクルージョンの実現をめざしていたのかを検討することを通して、「プロセス」としてインクルージョンを理解することの具体像の一端を明らかにした。またその過程が、統合という「状態」の実現をめざしていた従来のインテグレーションと、インクルージョンの相違をあらためて浮き上がらせるものであることを指摘した。「プロセス」としてインクルージョンを理解することにより、障害児を含めた多様なニーズをもつ生徒の存在を前提として、彼らを包摂する「不断の学校づくりの努力のプロセス」としてインクルージョンをとらえることが可能となり、通常学校教育のあり方そのものを問い直す議論としての視座を明確にすることができた。さらに、昨年度に引き続き、京都市立高倉小学校との共同授業研究では、障害児学級を足場に学習する児童について、教師と協働で具体的な支援について考えた。また、日本学術振興会の許可を得て大阪府大東市教育委員会の非常勤巡回発達相談員を勤め、本研究の成果の普及にも努めた。
著者
窪田 知子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.233-245, 2007-03-31

本稿では、今日のイギリスにおいて、ディスレクシアの子どもへの教育的対応をめぐって異なる2つの系譜があることについてまずその動向を整理し、その実態を明らかにすることを目的とする。その上で、一見矛盾するように見える2方向の動きについて、インクルージョンの視点からどのようにとらえることができるか、すなわち、それらが対立するものであるのか、あるいは通底する課題を見出すことができるのかどうかについて考察する。