著者
角田 文男 板井 一好 三田 光男 中屋 重直 桜井 四郎 立身 政信
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

産業界は勿論、社会全般にフッ化物の使用量が著増し、職場や日常生活に由来するフッ素の生体負荷量が増加する環境にある。懸念されるフッ化物の慢性影響として、少年期以後(主に成人期)の暴露による骨フッ素症が注目されるが、本邦ではその研究が殆どなされていない。本研究は骨フッ素症についてX線検査および臨床諸検査の成績から診断基準を確立し、さらに現在または過去にフッ化物暴露を受けている集団を対象として量-反応関係を検討したものである。1.骨フッ素症の診断基準:国内外から得られた多数の骨フッ素症のX線写真を読影し、これら患者の臨床検査成績を参考として重症度診断基準を作成した。即ち、骨X線の撮影部位は骨盤正面、腰椎を主とする脊椎部の正面と側面、膝関節を含めた下腿骨の正面と側面、前腕部の正面と側面または手部の正面とする。読影は骨梁の粗さ、骨密度の増高、骨輪郭の不明瞭さ、骨皮質の肥厚、石灰化や骨化の出現、骨棘や外骨腫の形成等をフッ素による硬化像として留意する。有所見は骨盤と腰椎>四肢骨>手の順で現れ易かった。骨X線像は重症度別に軽・中等・重症の3段階に分類しえた。臨床生化学的諸検査成績は、血清や尿のフッ素濃度を含めて直接的に診断に寄与しえなかった。2.フッ素の量-反応関係に関する疫学的検討:(1)労働許容濃度レベルの気中フッ化物に暴露されている中国労働者集団について年令階級別に暴露年数の長短と骨フッ素症の有症率を検討した結果、軽症を疑う者の率が45〜54歳代で暴露群に有意に高かった。45歳未満では15年暴露群でも有意の差を認めなかった。(2)国内の高フッ素地帯の住民について、過去に2〜3ppmのフッ素を含む地下水を20年以上飲用していた集団では、骨フッ素症が疑われる者を発見できず、また他の数地方で斑状歯者の家族検診を進めてきたが、まだ明らかな骨フッ素症は発見できない。