著者
竹下 秋雄
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.25-31, 2020

雅楽は、中国から朝鮮半島経由で日本に伝来し、宮廷音楽として根付いた日本の伝統音楽である。雅楽の旋律は多数の旋律型の組み合わせで構成されているが、先行研究における旋律型は雅楽すべての旋律の中のごく一部を示しているに過ぎず、すべての旋律の中での旋律型の位置付けを示す必要がある。 雅楽の旋律型は仮名譜を通じて楽譜中に読み取ることができる。しかし雅楽の楽譜は奏法譜であること、「塩梅」が楽譜上に記述がないことから、その読解は非経験者には困難である。読解は経験的に行われており明文化されたルールがないため、雅楽習得の敷居を高くしてしまっている。 そこで、本研究の目的は、雅楽の標準的楽譜でありもっとも広く普及している楽譜である『明治撰定譜』から雅楽の主旋律を担当する楽器「篳篥」の旋律型を抽出すること、とりわけ、これまで経験的無自覚に行われてきた旋律型の認識を統計手法を以って行うこととした。 まず、『明治撰定譜・篳篥譜』全72曲をデータ化し、その内68曲を分析対象とした。データ化の際にセルという形式を筆者が策定した。セルとはパターンの最小単位であり「仮名譜」における唱歌の大きい仮名ひとつを中心にした唱歌の仮名、運指などの楽譜データの複合体である。 次に、データ化した楽曲群を「六調子」を基に分析対象群と背景群に分けた。 次に、『明治撰定譜』に存在するすべてのセルタイプを抽出し、1~8セルタイプによるパターンを総当たりで生成した。次に、生成したパターンそれぞれについて統計的評価尺度であるFスコアを求め、パターンの特徴性を数値化した。次に、Fスコアの高い順に各「調子」ごとの特徴的パターンを抽出した。最後に、抽出したパターンと演奏音源を照合することで、各「調子」ごとの特徴的な旋律型を抽出した。演奏音源は宮内庁式部職楽部、東京楽所、天理大学雅楽部のものを使用した。 本稿では代表的なパターンと対応する旋律型について、出現頻度や前後の文脈を示すことで、「篳篥」の特徴的な旋律型を可視化し、雅楽の旋律の中での旋律型の位置付けを示した。また、既往研究で挙げられなかった旋律型を得ることができた。