著者
飯野 秋成 飯野 なみ
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.42-49, 2017 (Released:2019-02-01)

本稿では、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、1つの番組の主題歌に含まれるメロディのモチーフが、後続番組の主題歌のメロディに継承されている状況を、メロディ譜から考察した。さらに、メロディに含まれる音符の音価について、平均情報量による分析を行い、モチーフの継承による平均情報量の変化の特徴を示した。 まず、「第1期ウルトラシリーズ」の主題歌である「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のそれぞれについて、作曲者の作風と、当時の各楽曲制作に求められた方向性を文献からリサーチした。「ウルトラセブン」は「ウルトラマン」の後継番組でありながら、主題歌の制作においてモチーフを継承する意図は確認されなかった。さらに、メロディ譜の分析により、「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のメロディには、明確に共通といえるモチーフは見られなかった。 また、「第2期ウルトラシリーズ」の主題歌である「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンA」、「ウルトラマンタロウ」、および「ウルトラマンレオ」には、「ウルトラマンの歌」および「ウルトラセブンの歌」のモチーフが、それぞれ変形されながら継承されていることを確認した。 さらに、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、メロディの音価と音高の平均情報量を求め、2次元空間に配置すると、楽曲間のモチーフが大きく変形することなく継承されている場合に近接することを示した。モチーフが大きく異なる「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」の2_曲が早期に生み出されたことにより、その後のシリーズにおけるモチーフ継承によって統一感を保持しながらも、多彩な楽曲群が生み出されることにつながっていることが示された。
著者
飯野 秋成 飯野 なみ
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.42-49, 2017

本稿では、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、1つの番組の主題歌に含まれるメロディのモチーフが、後続番組の主題歌のメロディに継承されている状況を、メロディ譜から考察した。さらに、メロディに含まれる音符の音価について、平均情報量による分析を行い、モチーフの継承による平均情報量の変化の特徴を示した。 まず、「第1期ウルトラシリーズ」の主題歌である「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のそれぞれについて、作曲者の作風と、当時の各楽曲制作に求められた方向性を文献からリサーチした。「ウルトラセブン」は「ウルトラマン」の後継番組でありながら、主題歌の制作においてモチーフを継承する意図は確認されなかった。さらに、メロディ譜の分析により、「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」のメロディには、明確に共通といえるモチーフは見られなかった。 また、「第2期ウルトラシリーズ」の主題歌である「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンA」、「ウルトラマンタロウ」、および「ウルトラマンレオ」には、「ウルトラマンの歌」および「ウルトラセブンの歌」のモチーフが、それぞれ変形されながら継承されていることを確認した。 さらに、「第1期~第2期ウルトラシリーズ」の6_曲の主題歌について、メロディの音価と音高の平均情報量を求め、2次元空間に配置すると、楽曲間のモチーフが大きく変形することなく継承されている場合に近接することを示した。モチーフが大きく異なる「ウルトラマンの歌」と「ウルトラセブンの歌」の2_曲が早期に生み出されたことにより、その後のシリーズにおけるモチーフ継承によって統一感を保持しながらも、多彩な楽曲群が生み出されることにつながっていることが示された。
著者
大串 誠寿
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.71-78, 2013 (Released:2017-11-30)

本論では、明治初期・和装新聞の印刷面から、木版と鋳造活字版を識別する判定法を、整版、木活字版、鋳造活字版で印刷された3種類のサンプルに対して実施し、その有効性を検証する。 筆者は芸術工学会誌・第61号掲載論文「明治初期・和装新聞の版式判定」に於いて、同判別法について考察し、以下の手順を提示した。 (1)同一版面に出現する同一字種の複数の文字をサンプリングする。 (2)サンプルにPhotoshopで輪郭トレースを行い輪郭線画像を得る。 (3)輪郭線画像を重ね合わせて照合を行う。 (4)骨格・結構に差異が認められる場合は手作業により製作されたものと言えるので木版と判断される。 (5)骨格・結構に差異が認められない場合は手作業彫刻の偶発的な近似、又は鋳造による複製と考えられる。双方を明確に識別することは困難な為、この場合は判断を保留する。 (6)骨格・結構に差異が認められない場合が複数の組み合わせに於いて成立する時、偶発的近似と考えず、鋳造による複製と判断する。 サンプルは明治初期の新聞を集成した資料文献、北根豊・鈴木雄雅・監修1986-2000年『編年複製版・日本初期新聞全集』全64巻・補巻1,2・別巻(ぺりかん社)より採取した。同書は明治初期・主要新聞の各頁を写真撮影して掲載したもので、本論の検証に資する精度の画像を取得出来た。サンプル選定にあたっては、 先行研究により版式が明らかであること、同一字種の文字が適当な数含まれること、などが担保されるよう配慮した。その結果、整版は『太政官日誌』明治己巳第一號、木活字版は『官板バタヒヤ新聞』文久二年正月刊一、鋳造活字版は『長崎新聞』明治六年一月・第壱號を選出した。さらに、出現数が多いこと、字形がある程度の複雑さを備えていることを基準に各紙から4字種ずつ選出し、合計12字種をサンプルとした。これをイメージスキャナーCanon PIXUS-MP970を用いて一文字当たりを画素数300~400pixel四方の画像データとして取得した。続いてAdobe Photoshop CS3を用いて文字の輪郭線を抽出し、これを重ね合わせて照合することにより字形の異同を分析した。 整版文字27個と木活字版文字50個、鋳造活字版文字45個の合計122サンプルに対して実施した。その結果、3個(2.5%)について判定を保留したが、119個(97.5%)で先行研究に合致する判定結果を導き出した。
著者
安達 則嗣
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.45-52, 2011

日本の商業アニメーションは、日本を代表するコンテンツとして期待されて久しいが、期待されているほどの成果が得られているとはいえない。そこで、大手アニメーション制作会社である(株)ゴンゾ及び東映アニメーション(株)の事例研究を通じて、アニメーション制作会社とアニメーション産業の現状についてあらためて検討を実施した。その結果、従来からいわれている課題や新たな課題を含めて、いまだに多くの課題が存在していることが把握された。すなわち、(1)海外展開の困難性、(2)作品の均質化・固定化、(3)ビジネスの不透明性、(4)会計基準の不存在、という課題である。従来から期待されているソフト・パワーと経済波及効果に資する「アニメ(Anime)」ブランドというビジョンを実現するためのビジネスデザインには、これらの課題を克服するという観点が求められる。すなわち、質・量ともにストック豊富という強みを活かしながら、低迷する国内外の市場、特に海外市場を拡大して収益機会を得ると同時に、ビジネス上の課題を解消することでアニメーション関連事業者に適正な利益を還元し、業界を活性化させるというものである。具体的には、海外展開を支援する国際見本市や国際共同製作等の制度を充実し、かつ、作品の均質化・固定化を打破する創造的な人材の育成支援策を実施することで、低迷する市場を拡大させる。そして、作品に係る著作権等の帰属やテレビ放映権収入の有無等のビジネス慣行を透明化し、かつ、会計基準を設定することで、アニメーション関連事業者に適正な利益を還元させる。これらを政策として同時並行的に実施することで、期待されつつも低迷する日本の商業アニメーションのさらなる発展を期待したい。
著者
髙橋 浩伸
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.158-165, 2017 (Released:2019-02-01)

筆者は、これまで美的空間創造のための基礎的研究として、環境心理学のフィールドにおいて「人間-環境モデル」に基づき、建築空間における美的価値観の研究を続けてきたが、現代の建築的テーマとして、“ 地域性” や“ 歴史性” などが重視される中、その地域ならではの風土や文化・思想にあった美的空間を創造するためには、西洋の美とは違う、日本の特徴的な美を理解・把握しなければならないと考えた。 本研究は、筆者のこれまでの既往の研究を補完するものであり、美的空間創造のための基礎的研究と位置付けられ、その根本となるべき日本の美の概要と特徴を知るための研究と言える。具体的な本研究の内容は、国語学における知見を基に、古代から現在までの日本の美的言葉の時間的推移を調査・整理し、その構成モデルを作成することで、建築的視点や既往研究との比較検討を行い、日本の美の概要と特徴を把握することを本研究の目的とする。そのために、まず日本の美に関する言葉に着目し、国語学による知見を基に、古代からの現代においての時間推移と意味・内容の変遷を調査することとした。その結果まず美を表す言葉は、「くわし」→「きよら」→「うつくしい」→「きれい」と移り変わってきたことが理解でき、美的言葉の時代推移が把握できた。また、日本の特徴的な美的言葉に注目してみると、「なまめかしい」「こころにくい」「もののあわれ」「さみしい」など、今日では直接的に美を表現する言葉としては、理解しづらいような言葉が、古の日本人が持っていた、さりげない深い配慮を尊び、決し て誇張しないという奥ゆかしさの美であり、今日の日本人が失いかけている美の言葉として浮かび上がってきた。 また、「うつくしい」や「きれい」などの日本において美一般を表す言葉に関する共通する意味合いとして、清潔さ・明瞭さが見いだせるが、これらは、筆者の既往研究における、インテリア空間に関する現代日本人の美的価値観として多くの人が挙げた『シンプルである』『物が少ない』などと合致し、日本人の美的概念の特徴があらためて確認された。 更に今後は、本研究で明らかにされた「現代の日本人が失いかけている美の言葉」や「現代の日本人に受け継がれている特徴的な美の言葉」における美的言葉に着目し、それを建築的空間に落とし込み、日本人が持つ特徴的な美的概念に応じた、美的空間創造のための基礎研究を続ける予定である。
著者
阿部 富士子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.40-47, 2020

「扇絵」は扇にするために扇面に描かれた絵である。しかし扇はその形態ゆえに傷みやすく、経年劣化した過去の扇は、保存修復の為、しばしば扇骨を抜かれ平らに表装されている。そしてそれらの扇絵が調査される際は、その平面になった状態のままで研究が続けられている。しかし扇絵を正しく解釈するには、元の姿を推定することが重要と考え、ここで元の扇を復元的に制作したものを「再現扇」と呼び、「扇絵」の理解の為の手段として提案した。 「再現扇」の制作には、推定が必要であり、1.折面と扇骨の位置関係、2.折目線と折面の状態、3.扇面比に伴う歪みの変化、などの扇そのものの物的・工作的特性と、4.扇絵自体の描画特性、の4項目を手掛かりとした。またそれらに加え過去の扇の計測数値や、江戸時代の絵師が描いた現存する扇の描画例も推定の参考にした。 次に先行研究から、「写楽扇面」の調査分析、及び「源氏物語絵扇面」の構図分析の二事例を取り上げた。それらに対し、具体的に「再現扇」を作成することによって従来とは異なる観点からの解釈を行った。 結果、①写楽扇面は、折目の存在からそれぞれ異なる履歴を想定した二説があったが、再現扇の作成を通じて新たな履歴が想定された。そしてその立体となった扇からは平面とは異なり登場人物の視線が自然と向き合う動きのある歌舞伎の一場面を感じさせるものとなった。また調査対象となった、同じく写楽作とされる「老人図」の扇とも類似する扇の形態を妥当と考えるに至った。②源氏物語絵扇面は室町時代の作である。扇絵に描かれた不自然に見える柱や床の歪みを矩形に変換することで構図解明が追求されてきたが、矩形の再現図では歪みは解消できていなかった。それに対し「再現扇」からは「歪み」の不自然さは感じられず、凹凸を生かした奥行きのある構図となった。源氏絵を得意とした土佐派は、当時より、扇絵の描画特性を備えた固有の描画法を確立していたのではないかと考えさせる結果となった。
著者
尹 智博
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.109-116, 2011-10-01 (Released:2017-11-30)

本論は、近代以後の音楽に大きな影響を与えたウィーンの作曲家アーノルト・シェーンベルクの音楽やその作曲法のなかに見出される造形的概念としての「無重力」について研究するものである。1920年代に活躍したオランダの造形集団デ・ステイルは、彼らの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物としてシェーンベルクを取り上げている。本研究は、デ・ステイルの造形実験と同様とされたシェーンベルクの音楽の分析を通して、その音楽や作曲法のなかに見出される造形的概念について考察を行うものである。1929年に、デ・ステイルの中心人物であったテオ・ファン・ドゥースブルフは、グループの活動をまとめた「新しい造形に向かって」という論文を発表する。ここで、グループの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物として、グループ唯一の音楽家ジョージ・アンタイルと共にシェーンベルクが取り上げられている。シェーンベルクは、「十二音技法」の作曲法などによって近代以後の音楽に大きな影響を与えた音楽家であり、同時代の様々な造形芸術家達からも強い関心を有されていた。デ・ステイルは、様々な音楽活動や『デ・ステイル』誌の音楽に関する論文において、シェーンベルクの音楽を取り扱っており、そこではシェーンベルクの音楽について、「デ・ステイル音楽」、「構成主義的音楽」、「キュビスムの音楽」、「機械的音楽」などと造形領域の言語を用いて論じていた。一方で、シェーンベルクの音楽の特徴でもある長調や短調といった調のない「無調性」の音楽に対しては、音楽領域から、これは「無重力」と同じものであると論じられるなど、造形領域が自明のものとしている「重力」という概念との関係によっても、シェーンベルクの音楽が捉えられていた事が確認される。デ・ステイルとシェーンベルクは、双方が「無重力」の追及や「上下左右の消失」という言語を用いて各々の芸術空間において共通する概念を示していた。そこでは、それぞれの芸術領域が自明としている造形領域においては「重力」や音楽領域においては「調性」といったものに束縛されない、自由な表現を求める実験が作品に表現されていた。そして、この「無重力」や「上下左右の消失」という概念こそが、シェーンベルクの音楽における造形的概念を示すものであり、多くの造形芸術家達に影響を与える要因となっている事が考えられる。
著者
長野 真紀
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.22-29, 2023 (Released:2023-03-31)

本研究は、台湾金門島に現存する伝統的集落の移住経緯と空間特性を明らかにすることを目的とする。これまで個別に捉えられてきた全143の伝統的集落の立地環境、歴史的建築物の種類と残存数、集落規模、建物棟数、方位軸、抱護の種類と空間範囲、居住者の主要姓氏、移住前後の居住地をまとめ、集落空間を類型化した。その結果、立地環境を平地から山裾、斜面地までの10類型、自然地形と植生による抱護の種類を9つに分類した。さらに集落を構成する建物棟数から空間規模を小・中・大に設定し、歴史的建築物の残存数と合わせて、各集落の現状を明らかにした。また、居住者の主要姓氏から単姓村76、複姓村67が確認された。文献資料とヒアリング調査に基づいて長期間にわたる移動前後の居住地とその変遷を追い、現地調査により居住地の環境を理解することで、集落の移住形態を5つの型(移住群:拠点型Ⅰ、Ⅱ、転移型、定住群:発展型、安定型)に分類した。これらの結果から、周囲を海に囲まれた島嶼の環境と歴史的な居住地の移動によって構築された集落の空間特性を明らかにした。
著者
尹 智博
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.109-116, 2011

本論は、近代以後の音楽に大きな影響を与えたウィーンの作曲家アーノルト・シェーンベルクの音楽やその作曲法のなかに見出される造形的概念としての「無重力」について研究するものである。1920年代に活躍したオランダの造形集団デ・ステイルは、彼らの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物としてシェーンベルクを取り上げている。本研究は、デ・ステイルの造形実験と同様とされたシェーンベルクの音楽の分析を通して、その音楽や作曲法のなかに見出される造形的概念について考察を行うものである。1929年に、デ・ステイルの中心人物であったテオ・ファン・ドゥースブルフは、グループの活動をまとめた「新しい造形に向かって」という論文を発表する。ここで、グループの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物として、グループ唯一の音楽家ジョージ・アンタイルと共にシェーンベルクが取り上げられている。シェーンベルクは、「十二音技法」の作曲法などによって近代以後の音楽に大きな影響を与えた音楽家であり、同時代の様々な造形芸術家達からも強い関心を有されていた。デ・ステイルは、様々な音楽活動や『デ・ステイル』誌の音楽に関する論文において、シェーンベルクの音楽を取り扱っており、そこではシェーンベルクの音楽について、「デ・ステイル音楽」、「構成主義的音楽」、「キュビスムの音楽」、「機械的音楽」などと造形領域の言語を用いて論じていた。一方で、シェーンベルクの音楽の特徴でもある長調や短調といった調のない「無調性」の音楽に対しては、音楽領域から、これは「無重力」と同じものであると論じられるなど、造形領域が自明のものとしている「重力」という概念との関係によっても、シェーンベルクの音楽が捉えられていた事が確認される。デ・ステイルとシェーンベルクは、双方が「無重力」の追及や「上下左右の消失」という言語を用いて各々の芸術空間において共通する概念を示していた。そこでは、それぞれの芸術領域が自明としている造形領域においては「重力」や音楽領域においては「調性」といったものに束縛されない、自由な表現を求める実験が作品に表現されていた。そして、この「無重力」や「上下左右の消失」という概念こそが、シェーンベルクの音楽における造形的概念を示すものであり、多くの造形芸術家達に影響を与える要因となっている事が考えられる。
著者
谷岡 曜子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.54-61, 2021

本研究では、ストーリーマンガのコマの数に関して、技法書やインターネット上で語られる通説から4つの仮説を抽出した。仮説ⅰ.コマ数の最頻値は5~7コマ、仮説ⅱ.最初のページのコマ数は全体のコマ数平均よりも少ない、仮説ⅲ.最後のページのコマ数は全体のコマ数平均よりも少ない、仮説ⅳ.全体を通してコマ数を変動させ緩急をつける。 これらの仮説の検証のためのサンプル群は、販売数統計サイト「オリコン」より、2017年2~7月期のマンガ販売数上位20作品、計120作品のうち、4コママンガ作品と重複を除く74作品の1話目とした。 仮説ⅰ~ⅳの検証の結果、ⅰ.1ページあたりの平均コマ数は4.99となり、従来の通説よりもコマ数が少ないという結果になった。1ページあたりのコマ数は時代の影響を受けやすく、仮説より少ない結果となったのはスマートフォンやタブレットなど、コミックスよりも小さなサイズの画面で鑑賞する読者の増加によると考えられる。ⅱ.最初のページのコマ数は平均よりも少なく、3.9コマであった。従来の仮説の理由となっていた、冒頭に印象的な絵や情報を配置するために大きくコマを取ることが、コマ数が減った原因であろうと考えられる。ⅲ.最後のページのコマ数は最初のページのコマ数よりも少なく、3.2コマとなった。最後のページには余韻を残す、または次回への誘引が求められるため、その影響を受けていると考えられる。ⅳ.全体を通してコマ数を変動させ緩急をつけるべきであるという仮説の検証のため、1作品を等分に4分割し、頭から区間①~④とし、区間の比較によって1話の大まかなコマ数の変化を調査した。その結果、ページあたりの平均コマ数を比較すると、区間②を頂点とした山型のグラフができた。 しかしながらコマ数が少なくなるという結果の出た区間①は、物語の重要な情報が集中する区間であり、コマ数は増えるように思われる。こうした結果になった原因は、読者への情報の提示に、わかりやすさが優先された結果であり、コマ数は情報と演出の両方から影響を受けていることがわかる。 検証の結果、仮説ⅱ~ⅳは正しい。仮説ⅰに関しては、実際には仮説よりもコマの数が少ないという結果となった。
著者
森下 あおい 黒川 隆夫
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.113-120, 2010

日本では明治時代には写真はまだ希少なものであったが,僅かに女性の容姿も撮影されていた.そこで本稿では,系統的な集団計測が行われていなかった当時の女性の体形を把握するため,明治期に撮影された65枚の写真から全頭高,幅径,高径四肢長などの16項目のサイズ値を推定し定量化した.その結果,明治期の女性は現代女性よりも狭い肩幅で,体幹部の下部が広く手足の短い体形であった.さらに明治期女性を,芸妓,写真のモデル,良家の子女の3種の職業で比較すると,明確な体形差が判明した.すなわち,女性の美の理想とされた芸妓は,比較的各部位の位置が高く小顔で細身の体形であり,3種の中では現代女性に最も近い体形特徴を持っていた.一方,写真のモデルは体幹部の幅が広く大顔で,がっしりとした体形であり,良家の子女は身体の部位の位置が低く,寸胴の体形であった.
著者
李 知恩 林 美都子 野坂 政司
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.53-62, 2011

本研究では、キネティック・タイポグラフィの感性に着目し、キネティック・タイポグラフィの感性を理解するために一つの方法としてその感性値を統制する尺度が必要であると考え、音楽用感性評定尺度(AVSM)によるキネティック・タイポグラフィ測定を試みることで、キネティック・タイポグラフィ用感性評定尺度としての使用可能性を検討した。本調査では、音楽用感性評定尺度の24項目の形容語によるキネティック・タイポグラフィの印象評価を行った。キネティック・タイポグラフィの調査は2010年5月から8月まで、北海道教育大学函館校の大学生1〜2年生を中心とした。1分の長さに統制した音楽を添えた場合(4種)・音楽を添えない場合(4種)の8種、ユーチューブにアップロードされている既存2種のキネティック・タイポグラフィの音楽を添えた場合(2種)・音楽を添えない場合(2種)の4種、総12種類(総736件)のデータを収集した。キネティック・タイポグラフィのKMOの測度とBartlettの検定を行った結果、総736件の独立変数の要因分析結果に対する解析KMOの標本妥当性の測度は0.862,Bartlettの球面性検定有意確率は0.01以下であった。また、因子数に5を指定して主因子法・プロマックス回転による因子分析を行ったところ、固有値は、6.88,3.78,2.82,2.26,1.56,0.97…というものであり、固有値1以上を採用して5因子構造による分析が妥当であると考えられた。因子負荷パターンはAVSMの24項目の因子分析結果と一致する明確な5つの因子と因子間相関が得られた。なお、回転前の5因子で24項目の全分散を説明する割合は、65.10%であった。また、各尺度の内的整合性を検討した結果、「高揚」下位尺度でα=.92、「強さ」下位尺度でα=.89、「荘重」下位尺度でα=.90、「親和」下位尺度でα=.80、「軽さ」下位尺度でα=.79といずれの尺度においても高い内的整合性を有していることが確認された。さらに、キネティック・タイポグラフィの音楽有無及び、時間の長さ(1分、2分)による相違を分析した結果、いずれもAVSMの24項目の因子分析結果と一致する明確な5つの因子が得られ、いずれの尺度においても比較的高い内的整合性を有していることが確認された。したがって以降の研究において、キネティック・タイポグラフィの感性評価をAVSMで行うことに大きな問題はないと考えられる。
著者
畑中 久美子 木村 博昭 村本 真 加藤 亜矢子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.113-120, 2016 (Released:2018-12-24)

本論文では、「団子積み」と「練り土積み」と呼ぶ古来から日本にある、湿った土を積み上げる土壁構法に焦点を当てる。本論文の目的は、建築における土壁構法の選択肢を増やす事や、2つの構法の活用可能性を広げることを最終目標と捉え、その第一歩として、今後の建築のための記録を残すことと、2つの構法の違いおよび、版築や2つの構法に類似する土を積み上げる土壁構法に対する位置付けを明確にすることである。「団子積み」と「練り土積み」の施工特性を把握するため、以下の方法で研究を進めた。 1)「団子積み」と「練り土積み」構法の定義 2)「団子積み」と「練り土積み」の検証実験 2つの構法のいずれか、もしくは両方を用いた3つの建築や工作物によるプロジェクトの検証実験について、計画と概要、材料、道具、施工の要領をまとめ、工程、施工日数、人数等を比較、考察する。 3)1)〜2)を総合して、「団子積み」と「練り土積み」を用いた土壁構法の施工特性をまとめる。3つのプロジェクトと使用構法は下記のとおりである。 1.「公園灰屋」における「団子積み」 2.「藁葺き泥小屋」における「練り土積み」 3.「かまど」における「団子積み」と「練り土積み」の混合 検証実験の結果 「団子積み」と「練り土積み」の施工特性をまとめると、①施工速度が「団子積み」より「練り土積み」の方が速かったこと。②土に混ぜる水の量の目安が、「団子積み」の方が「練り土積み」より多かったこと、③土を練る際の藁は、「団子積み」では加え、「練り土積み」は加えなかったこと。などが挙げられた。本研究をとおして明らかになったことは、①「団子積み」「練り土積み」共、建物平面に曲面が多用されている場合は、型枠コストと、造形のしやすさの面で、型枠を必要とする版築よりも優位である。②「団子積み」より、「練り土積み」の方が施工速度が速く、乾燥期間も短いため、総工期を短かくすることができる。③ 1 日の壁の施工可能高さは「団子積み」「練り土積み」共600㎜程度である。さらに、版築や、2つの構法に類似する湿った土を積み上げる土壁構法に対する関係性を図示した。
著者
林 東煥
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.45-52, 2023 (Released:2023-03-31)

本研究は19世紀に流行した宮廷チェッコリ絵と民画チェッコリ絵における造形性をグラフィクデザインの観点から比較分析を行うことを目的にし、類似性、相違点の究明に焦点を当て、 視覚的特性を究明し、 その特性に関する要因を探求した。なお、美術史の視点ではなく、造形性と生活文化からの視点を採用する。作品は朝鮮時代後期である18世紀~1897年までの作品を網羅している『韓国の彩色画3』『韓国の彩色画6』『CHAEKGEORI』の3編で選定した。比較分析の対象とした作品数は、宮廷チェッコリ絵は11点、民画チェッコリ絵は25点となった。2つの絵における理論的背景より書物の表現、視点及び構図、装飾的要素を中心として探究し、当時の生活文化に基づき、要因を考察した。このような造形的特性の考察を通し、宮廷チェッコリ絵では韓国美術史における正統性があり、民画チェッコリ絵では大衆的な伝統性があることを明らかにした。なお、造形的共通性の中にも差異が明らかになり、伝統チェッコリ絵の様式を継承するデザイン作品の可能性が広がると考える。