著者
竹内 麻貴
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.93-107, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

労働力不足の解消・出生力の回復・低成長時代での家族形成という超高齢社会の日本が抱える政策的課題へ対応するには、男性稼ぎ手モデルから脱却することが必要とされている。本稿ではそれを阻む要因として考えられる、母親であることが低賃金に結びつくMotherhood Penalty(以下、MP)について検証した。男女の賃金格差の要因としてMPを盛んに研究してきた欧米に比べ、日本での蓄積はまだ浅い。そこで本稿では、最新の大規模パネル調査を用い、現代日本におけるMPの計量的検証を行った。被説明変数を時間あたり賃金、主な説明変数を子ども変数とした固定効果推定の結果、子ども1人につき約4%のMPが確認された。また、子どもが2人いると約12%、就学前の子ども1人につき約4~6%、子どもがいない女性よりも賃金が低いことが明らかになった。とくにMPの検出において、労働環境の質的特性が重要であることが示唆された。ただし、MPに関連する要因を統制することでMPを検出することはできたが、MPのメカニズムはそれらの要因によって説明されなかった。この結果には出産・育児離職によるセレクションが日本で大きいことが背景にあると考えられる。本稿で確認されたMPを予期し出産をしない女性や出産前に離職する女性が存在している可能性も鑑みれば、単に女性の労働参加を促すだけでなくMPを小さくすることが政策的に重要である。