- 著者
-
椿 淳裕
森下 慎一郎
竹原 奈那
德永 由太
菅原 和広
佐藤 大輔
田巻 弘之
山﨑 雄大
大西 秀明
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0413, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】有酸素運動の急性効果に関して,運動後に認知課題の成績が向上することが報告されている。我々は,有酸素運動後も運動関連領野の酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)が高値であることを報告している。認知に関与する前頭前野においても有酸素運動後にO2Hbが高値を維持すると仮説を立て,これを検証することを目的に本研究を行った。【方法】健常成人9名(女性5名)を対象とし,自転車エルゴメータによる中強度での下肢ペダリング運動を課題とした。安静3分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷で5分間の定常負荷運動を実施し,運動後には15分間の安静を設けた。この間,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用しO2Hbを計測した。国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,全24チャネルで測定した。関心領域は,左前頭前野(L-PFC),右前頭前野(R-PFC),左運動前野(L-PMA),右運動前野(R-PMA),補足運動野(SMA),一次運動野下肢領域(M1)とした。同時に,NIRSでの測定に影響するとされる頭皮血流量(SBF)と平均血圧(MAP)を計測した。また,酸素摂取量体重比(VO2/W),呼吸商(RQ),呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)をブレスバイブレス法で測定した。領域ごとのO2Hb,SBF,MAPは,安静時平均値に対する変化量を算出した。中強度運動5分目の1分間の平均値と,運動後安静11~15分の5分間の平均値を求め,対応のあるt検定により比較した。【結果】O2Hbは5分間の中強度運動中に徐々に上昇し,運動終了直後に一時的に減少したものの,2~4分で再度上昇し,運動後15分目まで安静レベルに戻らなかった。一方SBFおよびMAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,運動終了直後より速やかに安静レベルまで低下した。領域ごとに運動中と運動後安静中のO2Hbを比較した結果,L-PFCでは運動中0.025±0.007 mM・cm,運動後安静中0.034±0.008 mM・cm(p=0.212),R-PFCでは運動中0.024±0.008 mM・cm,運動後安静中0.028±0.009 mM・cm(p=0.616)であり,運動後11~15分であっても運動中と差がなかった。また,L-PMA,R-PMA,SMA,M1においても,中強度運動5分目と運動後安静11~15分との間に有意な差を認めなかった(p=0.069~0.976)。SBF,MAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,中強度運動5分目に比べ運動後安静11~15分では有意に低値であった(p<0.01)。【結論】5分間の有酸素運動によって,運動中に上昇したO2Hbは,運動後安静中も15分間は運動中と同程度であることが明らかとなった。またこのO2Hbの変動は,SBFやMAPなど他の生理学的パラメータの変動とは異なることが示された。