著者
地神 裕史 椿 淳裕 佐藤 成登志 遠藤 直人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2231, 2010

【目的】<BR> 近年、モータリゼーションの発展やライフスタイルの変化により歩行の機会が減少し、そのことが様々な骨関節系のトラブルを引き起こしている。外反母趾もその一つで、歩行機会の減少やファッションの欧米化に伴う履物の変化から、足趾や足底筋膜の機能不全、縦・横アーチの低下を引き起こし、二次的に生じるといわれている。医療保険の適応となる病的な外反母趾の診断基準には合致しない、いわゆる外反母趾予備軍は本邦において老若男女問わず増加傾向にあるといわれており、様々な分野でクローズアップされている。<BR> 正常歩行における推進力は足関節や前足部が地面を蹴り出すことによって得られるが、外反母趾患者やその予備軍の蹴り出しは、母趾の先端まで使えず母指球に多大なストレスを与えている場合が多く、そのことが更なる痛みを助長していると推察される。<BR> よって今回、歩行時に痛みを有さない健常者の足圧分布を測定し、母趾や母趾球に加わる圧変化と足部の形態学的異常との関係を明らかにすることを目的に本研究を行った。<BR>【方法】<BR>対象は歩行時に下肢に痛みを有さない健常者12名(25~64歳、平均年齢44.8±16.4歳)とした。方法は、足部の形態学的評価として(1)足長、(2)足囲、(3)アーチ高、(4)アーチ長、(5)アーチ高率(アーチ高/足長×100)、(6)外反母趾角度(Hallux Valgus Angle:HVA)、(7)第1中足骨の縦軸線と第2中足骨の縦軸線の角度(M1M2角)、を測定した。歩行能力の評価としてTimed up and go testを実施した。また、歩行時の足圧分布を足圧分布測定機器(ニッタ株式会社製)にて測定した。歩行時の立脚後期の蹴り出しの際に前足部に加わる足圧分布を母趾球エリア、母趾エリア、第2~5趾エリア、それ以外、の4分割にし、各々のエリアに加わる圧変化と形態学異常との関係を検討した。測定はすべて右側で統一し、歩行条件は最大速歩とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者への説明と同意は、書面と口頭にて研究概要と目的を説明し、同意書に署名をいただいた。なお、本研究は新潟医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を経て行った。<BR>【結果】<BR> アーチ高は平均3.4±0.5cm、外反母趾の程度を判断するHVAは平均17.1±4.6°、M1M2角は平均13.8±1.8°であった。立脚後期の蹴り出し時に前足部にかかる圧の総和を100%としたときの、各エリアにおける圧分布は、母趾球エリアで34.2±14.2%、母趾エリアで16.2±5.3%、第2~5趾エリアで9.6±6.2%、それ以外のエリアで40.0±13.7%であった。蹴り出しの際の母趾球と母趾に加わる圧の比率を母趾球の圧/母趾の圧(母趾球/母趾比)で表すと平均で2.2±1.0であった。形態学的にはHVAが15°以下、M1M2角が10°以下であれば正常範囲と言われているが、今回HVA15°以上は58.3%、M1M2角が10°以上が91.7%であった。HVA15°以上の7名を外反母趾群、15°未満の5名を正常群と分けた場合、外反母趾群の母趾球/母趾比は2.8±0.7あり、正常群の1.3±0.7と比較し有意に増大していた(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 歩行時に下肢に痛みを有さない健常者を対象に計測を行ったが、半数以上の対象者がHVA15°以上で形態学的な異常が認められた。様々な先行研究で近年無痛性の外反母趾が増加していることを報告しているが、本結果はこれらの先行研究を支持する結果となった。<BR> 今回、蹴り出しの際の母趾球と母趾の使用割合を明らかにする為に母趾球/母趾比を算出したが、この値は外反母趾群が有意に増大していた。この結果は歩行時の推進力を得るために必要不可欠な蹴り出しが、外反母趾群では母趾の先端ではなく、母趾球で生み出されていることを意味している。そもそも外反母趾は第1中足趾節関節で母趾が外反変形した状態と定義されるが、この状態は第1中足骨の内反を伴うことが多いとされる。このような形態学的な変化は長・短母趾屈筋の収縮時の作用方向を変化させてしまうため、蹴り出しの際に母趾の先端で蹴り出すことが難しくなると考える。<BR>【理学療法研究としての意義】<BR>今回用いた母趾球/母趾比は、歩行時の蹴り出しをどの部位で行っているか評価し、特定の部位に過剰なストレスが加わっていないか評価する上で有用な指標であると考える。また、このような指標を用いて歩行解析を行うことで二次的な外反母趾変形による痛みの出現や、変形の進行を防止する上で非常に重要であると考える。
著者
椿 淳裕 森下 慎一郎 竹原 奈那 德永 由太 菅原 和広 佐藤 大輔 田巻 弘之 山﨑 雄大 大西 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0413, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】有酸素運動の急性効果に関して,運動後に認知課題の成績が向上することが報告されている。我々は,有酸素運動後も運動関連領野の酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)が高値であることを報告している。認知に関与する前頭前野においても有酸素運動後にO2Hbが高値を維持すると仮説を立て,これを検証することを目的に本研究を行った。【方法】健常成人9名(女性5名)を対象とし,自転車エルゴメータによる中強度での下肢ペダリング運動を課題とした。安静3分の後,最高酸素摂取量の50%の負荷で5分間の定常負荷運動を実施し,運動後には15分間の安静を設けた。この間,粗大運動時のモニタリングに最適とされる近赤外線分光法(NIRS)により,脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用しO2Hbを計測した。国際10-20法によるCzを基準として30mm間隔で送光プローブと受光プローブを配置し,全24チャネルで測定した。関心領域は,左前頭前野(L-PFC),右前頭前野(R-PFC),左運動前野(L-PMA),右運動前野(R-PMA),補足運動野(SMA),一次運動野下肢領域(M1)とした。同時に,NIRSでの測定に影響するとされる頭皮血流量(SBF)と平均血圧(MAP)を計測した。また,酸素摂取量体重比(VO2/W),呼吸商(RQ),呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)をブレスバイブレス法で測定した。領域ごとのO2Hb,SBF,MAPは,安静時平均値に対する変化量を算出した。中強度運動5分目の1分間の平均値と,運動後安静11~15分の5分間の平均値を求め,対応のあるt検定により比較した。【結果】O2Hbは5分間の中強度運動中に徐々に上昇し,運動終了直後に一時的に減少したものの,2~4分で再度上昇し,運動後15分目まで安静レベルに戻らなかった。一方SBFおよびMAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,運動終了直後より速やかに安静レベルまで低下した。領域ごとに運動中と運動後安静中のO2Hbを比較した結果,L-PFCでは運動中0.025±0.007 mM・cm,運動後安静中0.034±0.008 mM・cm(p=0.212),R-PFCでは運動中0.024±0.008 mM・cm,運動後安静中0.028±0.009 mM・cm(p=0.616)であり,運動後11~15分であっても運動中と差がなかった。また,L-PMA,R-PMA,SMA,M1においても,中強度運動5分目と運動後安静11~15分との間に有意な差を認めなかった(p=0.069~0.976)。SBF,MAP,VO2/W,RQ,ETCO2は,中強度運動5分目に比べ運動後安静11~15分では有意に低値であった(p<0.01)。【結論】5分間の有酸素運動によって,運動中に上昇したO2Hbは,運動後安静中も15分間は運動中と同程度であることが明らかとなった。またこのO2Hbの変動は,SBFやMAPなど他の生理学的パラメータの変動とは異なることが示された。
著者
高井 遥菜 永井 理沙 椿 淳裕
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101213-48101213, 2013

【はじめに、目的】近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳循環酸素代謝を計測する近赤外線分光法(NIRS)が急速に普及してきた.NIRSが注目を集める大きな要因は,その安全性と拘束性の低さであり,様々な場面に応用されている.一方,NIRSの計測方法に由来する問題点として,NIRS信号は純粋な脳血流量だけでなく,頭皮血流や体循環変動等の要因によって変化するとの報告もあり,計測したヘモグロビン変化と脳神経活動との関連性の解明が不十分であるといった点も指摘されている.特に認知課題中の血圧変動の影響については十分に検証されてはおらず,この影響について明らかにすることでNIRSの信頼性を高める方法の開発に役立つのではと考えた.そこで本研究は認知課題中の血圧変動がNIRS 信号に及ぼす影響について検討することを目的とする.【方法】右利き健常成人男性12 名(年齢21.2 ± 0.4 歳)を対象に,カラーワードストループ課題(CWST)中の酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)を脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,測定した.プロトコルは,課題前安静20 秒,課題中20 秒,課題後安静20 秒の計60 秒を1 セットとし,これを3 回繰り返した.NIRSによる測定領域は,CWSTで賦活するとされる左前頭前野背外側部と,CWSTの関与が少ないとされる補足運動野とした.プローブ間隔30mmのホルダを使用し,国際10-20 法におけるCzを基準とし,照射プローブ8 本,受容プローブ8 本を頭部に4 × 4 の配列で設置した.また,CWST中には連続血行血圧動態装置(Finometer,Finepress Medical Systems)を使用し,右手の第3 指から脈拍1 拍ごとに収縮期血圧(SBP)を測定した.解析は課題前安静20 秒の平均からの変化量を求め,3 回分を加算平均し,全被験者分を平均した.統計処理はSBPとoxy-Hbとの相関関係の強さを課題前安静,課題中,課題後安静それぞれで,スピアマン順位相関係数検定により求めた.有意水準は5 %とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た.【結果】認知課題遂行に伴いSBPは最大21.9 ± 8.4 mmHg上昇した.SBPとoxy-Hb間の相関係数は,左前頭前野背外側部で課題前安静r=-0.089(p=0.272),課題中r=0.729(p<0.05),課題後安静r=0.304(p<0.05)と課題中のみに強い正の相関がみられた.補足運動野では,課題前安静r=-0.031 (p=0.705),課題中r=0.362 (p=0.735),課題後安静r=0.302 (p<0.05)であり,いずれにも強い相関は認められなかった.【考察】本実験では認知課題実施に伴い,20mmHg程度のSBP上昇が認められた.これはプレッシャーや緊張状態から交感神経活動が亢進したことによるものと考えられる.しかし,今回の結果では前頭前野背外側部のSBPとoxy-Hbとの間に,課題中においてのみ正の相関が認められた.この原因としてNIRS信号が安静中の血圧変動には影響されず,課題中の大きな血圧変動に影響を受けたこと考えられる.一方で,補足運動野においては相関が認められなかった.血圧がNIRS信号に影響を与えるならば,全チャネルにおいて血圧上昇に同調したoxy-Hbの上昇が観察されることが推測される.しかしCWSTの賦活領域のみに血圧との相関がみられる結果となった.このことは,血圧上昇が交感神経活動亢進のみによらず前頭前野背外側部局所の血流を増加させるために血圧を上げていた可能性を示している.先行研究では,一定強度以上で脳の限局的な活性領域に過剰に酸素が流入するのを防止する調整メカニズムの存在が明らかにされている.これより,一定以下の刺激では血圧上昇を伴って活動組織以外の血流を活動部位へ引きこむ現象が起こり得るのではないかと考えた.これがが裏付けられれば,NIRS計測における血圧上昇が脳活動と無関係のアーチファクトでない可能性も考えられ,今後検証していく必要がある.他の解釈としては,前頭前野背外側部が特に皮膚血流をNIRS信号に反映しやすいような構造であることも考えられる.これまでに前額部のoxy-Hb濃度変化の大部分は,心拍数とは異なる自律制御下にある皮膚血流のタスクに関連した変化が原因であり,前頭極部分でのNIRS計測に大脳皮質の血流変化が反映されにくいことが報告されている.【理学療法学研究としての意義】本研究は,NIRSを用いたより純粋な脳機能計測へ発展させる為の基礎的な研究として位置付けることができ,脳活動に着目した理学療法効果判定の精度向上に繋がるものである.