著者
竹原 明理
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

採用最終年度は、昨年度から継続している菊人形と人形芸術運動における生人形の調査が中心となった。研究実績として、論文二本(2012年4月以降刊行予定の一本を含む)、口頭発表二本、学会新聞への寄稿一本を行った。2011年は生人形師出身で後に人間国宝となった平田郷陽の没後三十年という節目の年であり、佐倉市立美術館と佐野美術館において展覧会・シンポジウムが開催された。また、日本人形玩具学会では平田郷陽と人形芸術運動が特集され、報告者も同学会第23回総会(於深川江戸資料館)で菊人形やマネキン人形などを製作した生人形師としての平田郷陽の姿について発表した。菊人形展については、二本松市、南陽市、笠間市、野田市、巣鴨、湯島のほか、吉野川市、枚方市、名古屋市、高浜市などを見学した。東日本大震災の影響が懸念されたが中止となった個所はなく、東京・愛知・大阪・大分の人形師からの聞き取り調査も行うことができた。また、枚方市の「ひらかた市民菊人形の会」への参加・調査も継続し、彼らの活動についての考察を日本民俗学会第63回年会(於滋賀県立大学)や研究会などで発表した。加えて、生人形の系譜を考察する上で重要な山車人形の見学を川越祭において行ったほか、2011年11月の見世物学会総会(於東京芸術大学)でも生人形が取り上げられたため、学会新聞へ短文を寄稿した。当初、本研究は明治・大正・昭和における博物館と百貨店の展示装置として用いられた生人形について調査を進めていたが、生人形師の系譜にある現役の人形師からの聞き取り調査を行う中で、菊人形や山車人形は重要な存在であること、昭和初期に展開された人形芸術運動における議論は人形の転換期として非常に興味深いものであったことなどが浮き彫りとなった。展示装置としての生人形製作に関わった人形師たちは、先行研究で記されてきた以上に幅広い分野で活動していたことが明らかとなり、今後もさらに多角的な視点から生人形研究を発展させていく上で、本研究は重要な意味を持っていたといえるだろう。