著者
竹村 正仁
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.g7-g8, 1997

根管の器械的清掃時には作業液を応用した根管の拡大・形成を進め, 拡大・形成後の化学的清掃には3〜5% NaOCl溶液および3% H_2O_2溶液による交互洗浄が一般に応用されている。しかし, 根管の拡大・形成の良否によっては根管内に応用する洗浄液の根尖歯周組織への溢出という危険性も考えられるため, 使用する洗浄液には可能な限り組織親和性を示すものが望ましい。最近, 水道水の電気分解で得られる強酸性水が広範囲な殺菌作用を示す一方, 細胞毒性が低く, 人体に何ら影響を及ぼさない水として注目されている。そこで本実験は, 根管拡大・形成後の根管洗浄液として強酸性水の根管壁スメアー層およびdebrisの除去効果を検索し, 臨床応用が可能かどうかを検討した。実験にはヒト抜去上顎中切歯120歯を使用し, 洗浄法に従いシリンジ洗浄群および超音波洗浄群の2群に60歯ずつを分割した。実験歯の髄室開拡後は, 通法に従いステップバック法にて根管の拡大・形成を終了した。なお根管の拡大・形成中は, 各群の60歯を15歯ずつの4グループにそれぞれ, 分割し, グループ1〜3は5% NaOClを, グループ4には強酸性水を作業液として応用した。根管の拡大・形成後, 各グループの根管洗浄を以下のように行った。すなわち, シリンジ洗浄群では22ゲージの注射針を装着した10 ml注射筒を用いて, グループ1の実験歯には精製水, グループ2には強酸性水, グループ3には15% EDTA, グループ4には強酸性水をそれぞれ用いて根管洗浄を行った。各グループはさらに5歯ずつの3つのサブグループに分け, 各洗浄液の使用量を10, 20および30 mlとした。超音波洗浄群では#30のファイルを超音波発生装置に装着し, シリンジ洗浄群の各グループと同様の洗浄液を使用して超音波洗浄を行った。超音波作用時間は各グループの実験歯をさらに5歯ずつの3つのサブグループに分け, 1分, 3分および5分間とした。全実験歯の根管洗浄後は歯冠部を切除したあと, 歯根を歯軸に沿って2分割し通法に従って電顕用試料とした。根管壁面の観察には走査型電子顕微鏡を用いて根中央部および根尖1/3部の写真撮影を行い, 根管壁面に残存するスメアー量ならびにdebris量を0〜3の数値にスコアー化し評価した。その結果, シリンジ洗浄法および超音波洗浄法ともに根管洗浄液の使用量および超音波作用時間の違いによる清掃効果には差を認めなかった。スメアー層除去効果については, 作業液にNaOCl溶液を使用した根管拡大・形成後に洗浄液として強酸性水をシリンジ清浄法で使用したグループ2は, EDTAを洗浄液として使用したグループ3と同程度の洗掃効果が得られた。しかし, 超音波洗浄法による清掃効果では強酸性水はEDTAより多少劣っていた。一方, NaOCl溶液を作業液として応用し根管拡大・形成を行ったのち, 精製水にて根管洗浄を行ったグループでは洗浄方法に関わらず根管壁面全体がスメアー層で覆われており, 明らかな歯細管の開口は認められなかった。この結果は, 強酸性水を作業液および根管洗浄液として用いたグループと類似の結果を示していた。Debris除去効果については, シリンジ洗浄法において, 強酸性水を使用したグループ2がEDTAを使用したグループ3より優れたdebris除去効果を示したが, 超音波洗浄法では両者の間に差はみられなかった。また, 作業液にNaOCl溶液を使用し, 根管拡大・形成後に根管洗浄液として強酸性水を使用したグループでは, 超音波洗浄法によって良好なdebris除去効果を示したが, シリンジ洗浄法では中等度の除去効果であった。さらに, 作業液および根管洗浄液に強酸性水を応用したグループでは, 洗浄方法に関わらず中等度のdebris除去効果を示したにすぎなかった。以上のことから, 根管拡大・形成時にNaOCl溶液を作業液として応用し, 拡大・形成後に強酸性水を根管洗浄液として応用すると根管壁面のスメアー層やdebrisの除去が十分に行われ, 強酸性水は根管洗浄液として臨床応用が可能であることが明らかになった。