著者
竹村 誠洋
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.35, pp.24, 2008

ナノテクノロジーは社会に多大な恩恵をもたらすことが期待される反面、健康・環境へのリスクなど、社会的影響に対する懸念も少なくない。現時点でリスクが顕在化したという勧告はないが、その潜在的リスクが研究開発関係者、リスク専門家のみならず、一部の市民にも意識されている。ナノテクノロジーの社会的影響に関する課題は環境・健康・安全関連の課題と倫理・法・社会関連の課題の二つに大別される。前者に関しては、ナノマテリアルの健康・環境リスク評価管理が至近の最重要課題である。一方後者に関しては、人文社会科学者らによるテクノロジー・アセスメントなどを通して、課題が抽出・整理される段階にとどまっている。ナノマテリアルは代表寸法(粒径、断面径、膜厚など)が100nm以下の工業材料と一般認識されている。そのリスクを被る対象として、労働者、消費者、環境の3つが挙げられる。中でも被ばくする可能性が最も高いのは労働者であり、現在実施されているプロジェクトのほとんどが彼らの安全衛生を目的としている。ナノマテリアルの管理においては、従来の化学物質管理と同様、ハザード(有害性)ではなくリスクを管理する、ということが世界的に大前提となっている。ハザードが大きい場合でも曝露を低減するように管理すればリスクを小さくできる、という考え方である。現状ではリスク評価を行うための十分なデータが蓄積されておらず、規制などが確立されるまでの間は、現実的な安全衛生対策の中で最善のものを行う、ベストプラクティスの実行が求められる。ナノテクノロジーの社会受容に関する取り組みは米国で始まり、欧州、日本がそれに続いている。例えば米国ではNIOSH、EPAなどの公的機関に加え、ICONなどの産学官およびNGOを含む組織の活動も活発である。またリスク評価に関する国際協力の重要性も認識され、OECD、ISOが国際合意形成の場として活動している。