著者
吉田 慎三 竹永 士郎 原 秀昭
出版者
Japanese Society of Equine Science
雑誌
日本中央競馬会競走馬保健研究所報告 (ISSN:03685543)
巻号頁・発行日
vol.1972, no.9, pp.74-79, 1972-12-21 (Released:2011-02-23)
参考文献数
3

馬の個体鑑別方法は,従来からわが国で行なわれている旋毛,白班,烙印などによる方法,米国で行なわれている口唇への刺青による方法,また付蝉の形態を記録し,それによる鑑別方法など種々行なわれているが,いずれの方法でも,一見して確実に鑑別出来る方法ではない。 競走馬における個体鑑別は,その性質上特に重要でより簡易にかつ適確に識別する必要がある。 今回,われわれは,牛において試みられ好成績を得ている凍結烙印を,馬の個体鑑別に応用するべく検討した。 本法は局所の凍結により被毛の色素細胞を破壊し,白毛を形成させることを目的としている。 実験方法は,95%のエチールアルコール中にドライアイスを投入し,その中に分厚い真鍮製の文字,数字の鏝を浸し数分後この鏝を取り出し,直ちに馬体皮膚に約3kgないし15kgの力で押圧した。 この押圧時間は,5ないし60秒の間で行なったが,押印部の被毛を剪毛し,アルコールで清拭した後では20~30秒を要すれば白毛の形成は良好であった。剪毛清拭などの処置を行なわない部位においては,20~30秒の押圧では,白毛形成が不完全であった。 押印部位は,頸部,肩部,髫甲部,臙部,腰部,臀部に行なったが,部位の相違による白毛形成の差は,前もっての処置を行なえば,20~30秒の押圧時間では変化は認められなかった。押圧力については,5kg程度で充分であった。 芦毛馬についても前述と同様な条件下で押印を行なったが,直後から判読は可能であった。この方法を実施後1年で白毛形成部位の皮膚組織を検査したところ汗腺の消失,毛根髄質の核融解,色素消失などが認められた。 この凍結烙印は押圧時の疼痛も少なく,同部位の化膿,壊死などの変化も見られなかった。