著者
笛木 司 松岡 尚則 牧野 利明 並木 隆雄 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 萩原 圭祐 田中 耕一郎 長坂 和彦 須永 隆夫 李 宜融 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.38-45, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2

『傷寒論』成立時代の権衡の考証を目的に,近接した年代に著された『本草経集注』「序録」の権衡を検討した。同書の度量衡は,権衡の記述に混乱が見られ,また度・量についての検証がこれまで十分に行われていなかった。そこで敦煌本『本草経集注』の「1方寸匕に等しい容積の薬升」の記述に着目,同記述が『漢書』「律暦志」の度に従っていることを仮定して計算を行い,1方寸匕の容量として5.07cm3の値を得た。得られた値を生薬の実測数値を用いて検証し,仮定を肯定する結果を得た。得られた1方寸匕の容量から換算した1合の値は『漢書』「律暦志」のそれと一致しており,『本草経集注』「序録」の度量が『漢書』「律暦志」に従っていることが確認された。次いで同書中に記述された蜂蜜と豚脂の密度について実測と計算値の比較を行い,『本草経集注』「序録」中の薬物の記述の権衡は『漢書』「律暦志」に従っていることが明らかになった。
著者
笛木 司 吉田 理人 田中 耕一郎 千葉 浩輝 加藤 憲忠 並木 隆雄 柴山 周乃 藤田 康介 須永 隆夫 松岡 尚則 別府 正志 牧野 利明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.336-345, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

中国天津市及び上海市の上水道水を用いて「ウズ」の煎液を調製し,煎液中のアルカロイド量を,新潟市上水道水を用いた場合と比較した。中国の上水道水を用いて調製した煎液中のアコニチン型ジエステルアルカロイド(ADA)量は,新潟市上水道水を用いた場合に比べ有意に少なく,この原因として,中国の上水道水に多く含まれる炭酸水素イオンの緩衝作用によりウズ煎煮中のpH 低下が抑制されることが示唆された。また,ウズにカンゾウ,ショウキョウ,タイソウを共煎した場合,ウズ単味を煎じたときと比較して煎液中ADA 量が高値となり、さらにこの現象は中国の上水道水で煎液を調製した場合により顕著に観察された。煎じ時間が一定であっても,用いる水や共煎生薬により思わぬADA 量の変化を生じる可能性が示唆された。また『宋板傷寒論』成立期の医師たちが,生薬を慎重に組み合わせて煎液中のADA 量を調節していた可能性も考えられた。
著者
笛木 司 田中 耕一郎 牧野 利明 松岡 尚則 佐藤 忠章 小池 一男 頼 建守 並木 隆雄 千葉 浩輝 別府 正志 須永 隆夫 岡田 研吉 牧⻆ 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.281-290, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
22

「桂」に類する生薬(以下「桂類生薬」)は,古典医書中,多くの薬名で記述されており,それらの薬名と基原の対応は現在も未解決の問題である。我々は『本草経集注』「序録」の「桂」の長さと重さに関する記述に,先に明らかにした同書の度量衡の換算値を適用することにより,当時「桂」として流通していた生薬は,現在のシナモンスティックに相当するCinnamomum cassia の枝皮(カシア枝皮)であったと強く推測した。推測の妥当性を確認するためカシア枝皮に含まれるケイアルデヒドとクマリンを生薬市場で入手した種々の桂類生薬と定量比較したところ,カシア枝皮中の2成分の含有量は,市場で上品とされる日本薬局方適合ベトナム産ケイヒ(C. cassia の幹皮)と近い値を示し,この推測を支持する結果を得た。C. cassia の幹皮の代わりに枝皮を医薬品として応用できる可能性があると考えられた。
著者
笛木 司 松岡 尚則 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 坂井 由美 長坂 和彦 牧野 利明 並木 隆雄 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.313-321, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

北京市昌平区で採水した上水道水を用いてマオウを煎じ,これを新潟市の上水道水,及び数種の市販ミネラルウォーターによる煎液と比較し,水の性質が生薬からの成分の煎出に与える影響を検討した。日中の上水道水によるマオウ煎液には,種々の相違点が認められ,北京市の上水道水に対するマオウアルカロイドの移行率は,新潟市の上水道水における移行率に比べ,約80%であった。これらの現象には,水の一時硬度成分であるカルシウム/マグネシウムの炭酸水素塩濃度が影響していることが示唆された。さらに,硬度の高い水でマオウを煎じる際にタイソウが共存することにより,アルカロイドの抽出効率を含めた煎液の状態が,軟水で煎じた場合に近づくことを見いだした。タイソウは硬水煎の際には水軟化剤としての働きを負っている可能性が示唆された。
著者
小池 宙 松岡 尚則 笛木 司 牧野 利明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.406-417, 2020 (Released:2022-03-11)
参考文献数
65
被引用文献数
1

[緒言]昭和時代の漢方家,荒木性次や大塚敬節は,新鮮なショウガ根茎を「生姜」,湯通し等の修治を経たものも含めて乾燥させたショウガ根茎を「乾姜」としていた。しかし,現代の漢方では,修治をせずに乾燥させたショウガ根茎を「生姜」,蒸すという修治を経た乾燥ショウガ根茎を「乾姜」とすることが多い。本研究は,この変遷の経緯について明らかにすることを目的とした。[方法]明治以降に版を重ねている歴代の『日本薬局方』の他,「生姜」と「乾姜」の定義に言及している文献を調査した。[結果]昭和までの漢方では,「生姜」と「乾姜」は,それぞれ「新鮮ショウガ根茎」と「修治されていないものも修治されているものも含めた乾燥ショウガ根茎」であった が,平成以降はそれぞれ「乾燥以外に加工されていない乾燥ショウガ根茎」(乾生姜)と「修治された乾燥ショウガ根茎」に変わり,新鮮ショウガ根茎は「ひねショウガ」と別に呼ばれるようになった。