著者
長坂 和彦 福田 秀彦 渡辺 哲郎 永田 豊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.98-102, 2012 (Released:2012-10-04)
参考文献数
11
被引用文献数
5 6

漢方薬はこれまでも腎疾患に応用されてきた。漢方薬の大黄や温脾湯には,透析導入までの期間を延ばす働きがあることが知られている。しかし,その効果は1/Cr の傾きを改善するにとどまり,Cr 自体を改善するわけではない。今回,西洋薬が無効であった慢性腎不全患者に漢方薬の黄耆が奏功した4症例を報告する。4例ともCr 値は明らかに改善し,透析導入までの期間が延長された。このうち2例は4年以上にわたり安定的に推移している。4例とも副作用は認めず,また治療前後で血清リン,カリウム,尿酸値に変化はなかった。黄耆は慢性腎不全の有力な治療薬となりうる。
著者
渡辺 哲郎 永田 豊 福田 秀彦 長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.230-243, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
39
被引用文献数
2 4

特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis, IMP)は,腸間膜静脈壁硬化に起因した還流障害による慢性虚血性腸病変で,右半結腸を主体に,青銅色調の粘膜変化,腹部単純X 線撮影検査や腹部CT 検査での腸管や腸管周囲静脈の石灰化を特徴とする。近年漢方薬長期投与中のIMP 発症例を散見するが,漢方診療を専門に行う外来での実態は明らかではない。今回,諏訪中央病院東洋医学センターを5年以上通院する患者を対象としてIMP 罹患の有無を検索したところ,対象257名中2名(0.8%)で認めた。いずれも山梔子を含む方剤を長期服薬し,一例は急性腹症で緊急手術が施行され,一例は無症状であった。発症機序は不明な疾患であるが,長期に漢方治療を受ける患者,特に山梔子服薬患者においては,その存在を念頭におき,無症状例であっても積極的な画像検索を行う必要があろう。
著者
長坂 和彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.699-704, 2007-07-20
被引用文献数
1

二千年以上にわたり漢方が永続し得だのは,「漢方は効く」この一点に尽きる。二千年前の薬が効くのは,人の体が二千年前とほとんど変わらないからである。一説には400万年の間,人はほとんど進化していないという。しかし我々を取り巻く環境は著しく変化し,アレルギー疾患のような新たな証を引き起こす要因となっている。日本漢方は証を決定する上で,傷寒論・金匱要略を重視している。それ以外の考えを排除する,あるいは傷寒論・金匱要略に収載されている薬方以外は用いない,という行き過ぎと思われる意見もある。しかし証を決定する上で根底を成す傷寒論・金匱要略は時代より変化しているのではないかと思う。傷寒論は林億らの宋改を経ている。金匱要略はまだしも,傷寒論は宋改を経ていない医心方や太平聖恵方と異なっている点も多い。我々は,張仲景が書いた傷寒論・全国要略を重視するといいながら,実は,林億らが書き換えた,あるいは,それ以前に書き換えられていた傷寒論に基づいて証を決定している可能性が高い。ここで注意してほしいのは,書き換えたことがいけないということではない。むしろ,宋板傷寒論は現代によりマッチしていると思っている。我々は,古いスタイルから脱皮することを恐れてはならない。漢方医学は四診をことのほか重視する,といわれているが,これは単に漢方医学が成立した時点で四診くらいしか情報を得る手段がなかったからである。現在の医療機器の進歩にはめざましいものがある。白血球やCRPが上昇している場合は,闘病反応が強いので実の反応と捉えることも可能である。我々は,有用であるものは可能な限り取り入れ治療に当たるべきである。これは,傷寒論の序文にある,「博采衆方」という考えに合致すると信ずる。
著者
後藤 博三 嶋田 豊 引網 宏彰 小林 祥泰 山口 修平 松井 龍吉 下手 公一 三潴 忠道 新谷 卓弘 二宮 裕幸 新澤 敦 長坂 和彦 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.471-476, 2008 (Released:2008-11-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主体とした漢方薬の効果を3年間にわたり前向き研究により検討した。対象は富山大学附属病院ならびに関連病院を受診した無症候性脳梗塞患者93名で男性24名,女性69名,平均年齢70.0±0.8才である。桂枝茯苓丸エキスを1年あたり6カ月以上内服した51名をSK群,漢方薬を内服せずに経過を観察した42名をSC群とし,MRI上明らかな無症候性脳梗塞を認めない高齢者44名,平均年齢70.7±0.7才をNS群とした。3群間において,開始時と3年経過後の改訂版長谷川式痴呆スケール,やる気スコア(apathy scale),自己評価式うつ状態スコア(self-rating depression scale)を比較した。また,SK群とSC群においては自覚症状(頭重感,頭痛,めまい,肩凝り)の経過も比較検討した。その結果,3群間の比較では,自己評価式うつ状態スコアにおいて開始時のSK群とSC群は,NS群に比べて有意にスコアが高かった。しかし,3年経過後にはNS群は開始時に比較し有意に上昇したが,SK群は有意に減少した。さらに無症候性脳梗塞にしばしば合併する自覚症状の頭重感において桂枝茯苓丸は有効であった。以上の結果から,無症候性脳梗塞患者の精神症状と自覚症状に対して桂枝茯苓丸が有効である可能性が示唆された。
著者
笛木 司 松岡 尚則 牧野 利明 並木 隆雄 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 萩原 圭祐 田中 耕一郎 長坂 和彦 須永 隆夫 李 宜融 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.38-45, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2

『傷寒論』成立時代の権衡の考証を目的に,近接した年代に著された『本草経集注』「序録」の権衡を検討した。同書の度量衡は,権衡の記述に混乱が見られ,また度・量についての検証がこれまで十分に行われていなかった。そこで敦煌本『本草経集注』の「1方寸匕に等しい容積の薬升」の記述に着目,同記述が『漢書』「律暦志」の度に従っていることを仮定して計算を行い,1方寸匕の容量として5.07cm3の値を得た。得られた値を生薬の実測数値を用いて検証し,仮定を肯定する結果を得た。得られた1方寸匕の容量から換算した1合の値は『漢書』「律暦志」のそれと一致しており,『本草経集注』「序録」の度量が『漢書』「律暦志」に従っていることが確認された。次いで同書中に記述された蜂蜜と豚脂の密度について実測と計算値の比較を行い,『本草経集注』「序録」中の薬物の記述の権衡は『漢書』「律暦志」に従っていることが明らかになった。
著者
長坂 和彦 土佐 寛順 巽 武司 嶋田 豊 伊藤 隆
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.273-280, 1998-09-20
参考文献数
13
被引用文献数
7 4

西洋医学的治療に抵抗した難治性の褥瘡に帰耆建中湯加附子が奏功した4症例を経験した。症例1は82歳, 女性。繰り返す褥瘡に帰耆建中湯加附子が有効であった。帰耆建中湯加附子の内服を継続することにより、新たな褥瘡の再発はない。症例2は59歳, 女性。直径2cmの褥瘡周囲の皮下に直径10cmにわたるポケット形成があり、同部の皮膚は紫色を呈していた。帰耆建中湯加附子内服後、皮膚の色は正常になり褥瘡は治癒した。症例3は85歳, 男性。過去2回、瘻孔を伴う褥瘡の手術を受けたが治癒しなかった。帰耆建中湯加附子内服後、体交時, おむつ交換時に看護婦を大声で怒る元気がでてきた。また、創部消毒時に強い痛みを訴えるようになった。痛みの自覚は血流が改善してきたことによると考え、同方を継続。褥瘡の治癒とともに全身状態も改善した。症例4は64歳, 女性。心筋梗塞後に心停止し、脳死状態になり、仙骨部に褥瘡を形成するに至った。褥瘡は大学付属病院,総合病院で治療を受けたが改善しなかった。帰耆建中湯加附子 (黄耆30.0g, 白河附子6.0g) で治癒した。帰耆建中湯加附子は、難治性の褥瘡には一度は試みてよい方剤と考えられた。
著者
永田 豊 小山 俊平 長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.245-249, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
22
被引用文献数
2

吃逆はときに難治性となる。我々は棘下筋の硬結(寺澤ポイント)への鍼施術が有効であった吃逆症例を2例経験したため報告する。症例1は85歳の男性で,細菌性胸膜炎の入院症例。吃逆が11日間持続していた。薬物治療が部分的に有効であったが、吃逆は消失しなかった。寺澤ポイントへの置鍼で翌日に吃逆が消失した。症例2は68歳の男性で,特に契機なく吃逆が発症した。吃逆が前日から持続し,夜間睡眠障害を経験した。寺澤ポイントへの刺鍼と電気温鍼器による加温で吃逆が施術中に消失し,再発せずに経過した。吃逆症例に対して,寺澤ポイントへの鍼施術は治療法の選択肢のひとつとなり,迅速な効果が期待できる。
著者
長坂 和彦 引網 宏彰 名取 通夫 川崎 武志 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.9-15, 2001-07-20
被引用文献数
1

今回,当帰四逆加呉茱萸生姜場加附子を酒煎することを指示し,良好な結果を得た症例と中毒症状を来した各一症例を経験したので報告する。症例1は46歳,女性。夜間寒さで目覚め,一度目が覚めるとストーブにあたりながらドライヤーで肩から腕を温めないと眠れなかった。そこで,酒煎(水:酒=1:1で煎じる)を指示したところ,冷え症が改善して夜間の覚醒がなくなった。症例2は65歳,男性。2年前より多関節痛,腰痛があり,冷え症も強くなってきたため受診した。当帰四逆加呉茱萸生姜場加烏頭で足が温まるようになった。さらなる効果を期待して,酒煎を指示したところ,内服25分後に舌のしびれを自覚した。附子中毒と考え服用を中止した。清酒は性大熱にして,陽気を助ける作用がある。これは附子の作用と同じである。当初は,附子と清酒中のアルコールの相乗効果で作用が高まると予想した。しかし,清酒と同じアルコール濃度のエタノール液で煎じた場合は効果は高まらず,清酒による煎液のpHの低下が主因であった。
著者
長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.699-704, 2007-07-20 (Released:2008-09-12)

二千年以上にわたり漢方が永続し得たのは, 「漢方は効く」この一点に尽きる。二千年前の薬が効くのは, 人の体が二千年前とほとんど変わらないからである。一説には400万年の間, 人はほとんど進化していないという。しかし, 我々を取り巻く環境は著しく変化し, アレルギー疾患のような新たな証を引き起こす要因となっている。日本漢方は証を決定する上で, 傷寒論・金匱要略を重視している。それ以外の考えを排除する, あるいは傷寒論・金匱要略に収載されている薬方以外は用いない, という行き過ぎと思われる意見もある。しかし, 証を決定する上で根底を成す傷寒論・金匱要略は時代より変化しているのではないかと思う。傷寒論は林億らの宋改を経ている。金匱要略はまだしも, 傷寒論は宋改を経ていない医心方や太平聖恵方と異なっている点も多い。我々は, 張仲景が書いた傷寒論・金匱要略を重視するといいながら, 実は, 林億らが書き換えた, あるいは, それ以前に書き換えられていた傷寒論に基づいて証を決定している可能性が高い。ここで注意してほしいのは, 書き換えたことがいけないということではない。むしろ, 宋板傷寒論は現代によりマッチしていると思っている。我々は, 古いスタイルから脱皮することを恐れてはならない。漢方医学は四診をことのほか重視する, といわれているが, これは単に漢方医学が成立した時点で四診くらいしか情報を得る手段がなかったからである。現在の医療機器の進歩にはめざましいものがある。白血球やCRPが上昇している場合は, 闘病反応が強いので実の反応と捉えることも可能である。我々は, 有用であるものは可能な限り取り入れ治療に当たるべきである。これは, 傷寒論の序文にある, 「博采衆方」という考えに合致すると信ずる。
著者
笛木 司 松岡 尚則 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 坂井 由美 長坂 和彦 牧野 利明 並木 隆雄 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.313-321, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

北京市昌平区で採水した上水道水を用いてマオウを煎じ,これを新潟市の上水道水,及び数種の市販ミネラルウォーターによる煎液と比較し,水の性質が生薬からの成分の煎出に与える影響を検討した。日中の上水道水によるマオウ煎液には,種々の相違点が認められ,北京市の上水道水に対するマオウアルカロイドの移行率は,新潟市の上水道水における移行率に比べ,約80%であった。これらの現象には,水の一時硬度成分であるカルシウム/マグネシウムの炭酸水素塩濃度が影響していることが示唆された。さらに,硬度の高い水でマオウを煎じる際にタイソウが共存することにより,アルカロイドの抽出効率を含めた煎液の状態が,軟水で煎じた場合に近づくことを見いだした。タイソウは硬水煎の際には水軟化剤としての働きを負っている可能性が示唆された。
著者
大野 泰一郎 永田 豊 長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.8-17, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
19

煎じ薬を保管中に生じる生薬の色調変化は,服薬コンプライアンスを妨げる要因の一つとなる。滑石を含む煎じ薬に五苓散料を合方した後に,滑石が鮮やかな青色(鮮青色)を呈した例を経験し,気密容器を用いた原因生薬検討とTLC による成分分析を実施した。その結果,桂皮と白朮共存下,滑石は数時間で鮮青色を呈し,この呈色には,桂皮・白朮・滑石の3生薬に由来するcinnamaldehyde とatractylon,ケイ酸アルミニウムが関与していた。今回確認された桂皮と白朮共存下における滑石の鮮青色への呈色は,発色が顕著で数時間で生じる鋭敏な反応であり,服薬コンプライアンス維持の観点から,桂皮・白朮・滑石を含む煎じ薬投薬時には,滑石の呈色について患者に十分に説明し,呈色を避けるには滑石を別包とし他生薬と隔離保管,煎じる際に混合する方法が有効と考えられた。