著者
笹倉 直樹
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

弦理論における不確定性関係は弦理論の基本的自由度と密接に関わっていると考えられており、その自由度は量子重力のそれとも対応すると思われる。一方、ド・ジッター時空は、観測可能な時空の境界であるところの地平線をもっており、そのため、べーケンシュタインとホーキングの理論によって、なんらかの形で、量子重力の熱力学的な自由度が付随していると考えられている。従って、ド・ジッター時空を弦理論で実現することにより弦理論の基本的自由度に対する知見を深めることができると考えられる。ド・ジッター時空の一つの特徴は、それが超対称性を持たないことである。そのため、超弦理論の非超対称な背景場か、非超対称弦理論の背景場を考える必要がある。従来の弦理論の研究は、超対称性を中心としたものであるため、非超対称な場合への拡張が必要である。今年度の研究では、弦理論の有効作用として、重力とスカラー場が相互作用する系において、ド・ジッター時空がどのように実現されるかの研究を行った。まず、特異点を持たない解の構成に対する議論を行い、具体的な厳密解の構成を行った。この厳密解は、ドメインウォールがド・ジッター時空になっているような解で、ブレインワールドのシナリオのもとで、我々の時空と同一視できるものである。スカラー場のポテンシャルはスカラー場に対して周期的な関数であり、アクシオンのそれとみなす事ができる。このようなポテンシャルは弦理論において、コンパクト化に伴うモジュライスカラー場のインスタント補正として実現できるものである。今後の研究としては、今年度の研究結果を基にして、弦理論への具体的な埋め込みを行い量子重力的自由度についての考察を行うことや、より一般的な非超対称弦理論の背景場の研究などを行いたいと考えている。