著者
甲斐 祥吾 笹原 紀子 野村 心 芝尾 與志美 中島 恵子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.320-329, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
29

左内頸動脈閉塞に起因する脳梗塞後に, 高次脳機能障害による社会的行動障害として万引きを繰り返し, 時刻表的行動, 失語症を呈した症例を経験した。今回, 責任病巣から先行研究と比較・検討したうえ, 万引きの対象品, 要因等を行動観察により評価した。介入内容として, 多職種の協力体制のもと, (1) 万引きの対象は特定の嗜好品であったことから金銭管理, 嗜好品の保管, チェックリスト作成を行い, (2) 時刻表的行動をプラスの側面と捉えて買物・摂食をスケジュール化したことで, 万引きは消失した。今回, 前頭葉に損傷がなく, 一側性の病変により常同的な食行動異常を呈する万引きに対しては, 環境の構造化により, 不適切行動が早期に消失する可能性が示された。これらのことから, 病巣と行動観察から原因を評価し, 地域生活にわたるまで多職種で関わることが, 万引きのような触法行為を伴う社会的行動障害にも有効であると示唆された。