著者
筧 楽麿
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

加速度記録のエンベロープ合わせによる高周波生成過程の推定に遺伝的アルゴリズムを用いる手法を開発した。モデルパラメータは加速度放射強度と破壊時刻である。1995 年兵庫県南部地震のシミュレーション記録をデータとして使った解析では,「現世代の上位5%はそのまま次世代の個体として残すという『エリートコース』」を設けることにより良好な観測・合成エンベロープの合いを実現した。シミュレーションでは非線形性の強いパラメータである破壊時刻も非線形性の弱い加速度放射強度と同等の良好さで決定され,この種の解析のネックであった非線形性は克服できたと考えられる。一方,シミュレーションで用いた観測点数(9点)では震源モデルを充分に拘束できなかった。これは手法の欠陥ではなく,破壊時刻と放射強度の両方をモデルパラメータとするにはデータの持つ情報量がやや不足していることを示している。即ち震源モデルを充分に拘束するには多くの震源近傍の観測点が必要であるということが明らかになったということで,高密度の強震観測の重要性を訴える結果である。超広帯域の解析として1994年のノースリッジ地震の解析を行った。残念ながら観測点数が5点と少なかったため破壊時刻をモデルパラメータに含めることができず,線形化してエンベロープインバージョンを行う手法で高周波(5-10Hz)の地震波の生成過程を推定した。Wald et al.(1996)による低周波数帯の解析結果と比較すると,(1)高周波はすべりの大きい領域の周辺部から励起されていること,(2)高周波を励起しているのは断層面上のごく限られた領域であることが明らかになった。(1)のメカニズムは第一義的にはstopping phase で説明される。また(1)は強震動予測においては対象とする周波数帯にあった震源モデルを用いることの重要性を示唆する。これらは超広帯域の解析が震源の物理の理解と強震動予測のための震源のモデル化に大きな役割を果たすことを示すものである。