著者
算用子 麻未
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

長く採った挿し穂の基部と先端の両端を挿しつけアーチ状にしたアーチ型挿し木の実用方法として、小崩壊が起こり、裸地化した林道法面への緑化を考える。アーチ型挿し木での緑化の特徴は、アーチ部分へ土砂が堆積、固定されると、その土砂に植物が侵入してくることも期待できることにある。今回はアーチ型挿し木の可能な崩壊地の形態や、有効な挿し穂の配置方法の検証を目的とする。試験は東京大学附属演習林である千葉演習林と秩父演習林で行った。挿し穂の長さは80cm、両端の挿しつけ深さは各20cmとし、挿し穂を階段状に配置した。一部の挿し穂には挿し穂の抜け防止針金を実施した。樹種は千葉演習林でウツギを、秩父演習林ではフサフジウツギとバッコヤナギを使用した。また、秩父演習林では挿し付け直後にシカによる食害が発生したため、柵を設置した。千葉演習林では試験区を3ケ所設置したが、全体の生存率は35.2%と非常に低い。これは主に水分条件の悪さが影響したためと考えられる。挿し穂の抜け防止針金は非常に有効であったが、挿し穂が枯死してしまうと挿し穂が折れることが多く、それでは意味を成さないので、やはり挿し穂の生存率を上げることが重要であると言える。秩父演習林は、秋までの生存率がフサフジウツギで81.7%と非常に高かった。フサフジウツギは、シュートの成長もよく、ウツギと比べて葉も大きいため、視覚的な緑化効果は非常に高い。しかし、今回の試験地は冬季に積雪があり、その重量に耐えきれず多くの挿し穂が流亡し、3月には生存率が38.3%まで落ち込んだ。結果として、アーチ型挿し木だけで崩壊の進行や積雪による挿し穂の流亡を防ぐことは困難であり、実用するためには、斜面長の短い斜面に限るか、間伐材を利用した方法との併用など対策が必要であると言える。また、今回は試験期間が短かったため、アーチ部分への土砂の体積は観察されなかった。