著者
篠田麻佳 大西彩子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 現代社会では自殺やいじめ,ひきこもりなど様々な問題が発生している。特に子どもや若者の自殺やいじめ,ひきこもりの問題は深刻で大きな社会問題になっている。それらの問題に関連する要因は様々であるが,その一つに自己肯定感の低下が挙げられる。自己肯定感の形成には,人生最初の適応環境である家庭文化の影響が非常に大きく関わっている(榎本,2010)。家庭文化の1つとして親の養育態度があげられる。子ども時代の両親の養育態度と自己肯定感と類似の概念である自尊感情には関連があり(山下,2010),親の受容的な姿勢は子どもの自己肯定感を高めると言われている(龍・小川内,2013)。また,自分の内面を開示し,深い友人関係をもつ人は,そういった関係を避ける人よりも自尊感情は高い(岡田,2011)。このように,自己肯定感と子ども時代の親の養育態度および友人関係の関連については先行研究により示されてきた。しかし,自己肯定感は過去からの積み重ねという要素もあるため,過去や現在を部分的に分けてみるのではなく,子ども時代の出来事が現在にどのように関係しているのかを明らかにする必要がある。篠田・大西(2017)では,親の養育態度および友人関係と自己肯定感との関連が示された。しかし,因果関係については示されていない。そこで本研究では,過去の親の養育態度および現在の友人関係が大学生の自己肯定感へ与える影響について検討することを目的とする。方 法調査対象者 私立大学文系学部に通う学生130名 (男性26名,女性104名,平均年齢20.14歳,SD =.90) を対象に,無記名方式による質問紙調査を行った。調査内容 過去の親の養育態度を測定する尺度としてParental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度(小川,1991),友人との関わりを測定する尺度として改訂版友人関係機能尺度(丹野,2008),自己肯定感を測定する尺度として大学生版自己肯定感尺度(吉森,2015)を使用した。結 果 Parental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度,改訂版友人関係機能尺度,大学生版自己肯定感尺度それぞれに主因子法プロマックス回転による因子分析を行った。Parental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度からは「養護」(α=.90),「過保護・過干渉」(α=.81)の2因子が抽出され,改訂版友人関係機能尺度からは「肯定・受容」(α=.91),「関係継続展望」(α=.88)の2因子が抽出された。また,大学生版自己肯定感尺度からは「安定した自己」(α=.79),「無条件の自己肯定」(α=.80)の2因子が抽出された。過去の親の養育態度が現在の友人関係を媒介して自己肯定感に与える影響を検討するために,共分散構造分析を行った(Figure1)。その結果,適合度指標はχ2=5.14,df=4,p=.273,GFI=.987,AGFI=.932,RMSEA=.047,AIC=39.14であった。「愛情・受容」は「無条件の自己肯定」,「過保護・過干渉」は「安定した自己」に直接的な影響を与えていた。「過保護・過干渉」は「肯定・受容」「関係継続展望」に影響を与えていた。一方,友人関係の「肯定・受容」は「無条件の自己肯定」に影響を与えていた。「過保護・過干渉」は「関係継続展望」を媒介し「安定した自己」に影響を与えていた。考 察 親からの受容的な愛情と,現在の友人に受容されていることは現在の自分を受け入れることに影響していた。先行研究でも,過去の親の愛情・受容が高い群や現在の肯定・受容的な友人関係が高い群は他の群より,現在の自分を受け入れることができると示されており,篠田・大西(2017)の結果に続くものとなった。安定した自己に過保護・過干渉的な関わりが悪影響を与えることが分かったが,愛情・受容的な関わりからの影響は見られなかった。どのような関わりが良い影響を与えるかを検討していく必要がある。また,今後は調査対象者の男女間の偏りを解消することで性別ごとに影響を与える要因についても検討したい。