著者
簑 弘幸
出版者
東邦大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

平成10年度は、ホークス型自己励起点過程と2重確率ポアソン点過程を組み合わせた場合について、EM(条件付き尤度期待値最大)アルゴリズムを用いて強度過程を特徴づけるパラメータの推定表現を導出した。特に、自己励起点過程では平成9年度の実績を踏まえて線形定係数微分方程式による「1メモリの自己励起・抑制型」の場合に着目すると同時に、2重確率ポアソン点過程では弱定常ガウス過程によって強度過程が変調される場合に着目して検討した。その結果として、強度過程のダイナミクスを特徴づけるインパルス応答関数の推定問題は、自己励起の成分と2重確率ポアソンの成分について2元の連立方程式を解く問題に帰着することを見出した。これによって、これまで自己励起型か2重確率ポアソン型のどちからに限ってモデリングする必要があったが、いわゆる混合型に拡張した簡便な推定表現を得ることができ、応用範囲を格段に広げることができた。更に計算機シミュレーションによって、それらの推定方法の妥当性を確認するとともに、点事象数とパラメータ推定精度との関係も明らかにした。その一方で、尤度を最大にするために非線形最適化に基づいてパラメータ推定する従来の方法と開発された方法の計算速度を比較した。その比較では、パラメータの値やEMアルゴリズムのための初期値にもよるが、概ね開発された方法によって高速化されるという結果を得た。これらの結果から、本研究で検討された自己励起・抑制型確率点過程と2重確率ポアソン点過程の強度過程のパラメータ推定アルゴリズムは、多くの分野で遭遇する複雑な点事象のモデリングとパラメータ推定に有効であると結論づけられる。なお本研究は、多変量の2重確率ポアソン点過程における強度過程のモデリング及び推定の一般化に多大な寄与をもたらすと思われる。