著者
米村 創
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.91, 2011 (Released:2011-05-24)

沖縄にはトンビャン(桐板)と呼ばれる植物性の原材料で織られた織物がある。本研究では、トンビャンの原材料である植物について、沖縄・中国の貿易、貿易品の流通、そして中国での農作物生産物からその解明を試みることを目的としている。 トンビャンは古く琉球王国時代から中国の福建省福州からの貿易品として輸入されていたという伝承が残っている。トンビャンは糸で輸入されることも多く、輸入された糸は沖縄の織物生産者の手によって織られ、高貴な身分の者を筆頭に一般庶民の間でも夏の衣服として広く利用されていた。トンビャンの織物生産は沖縄の統計や伝承によれば、昭和10年代ころまで生産されていたが、その後は中国からの輸入が途絶え、原材料が無くなった沖縄地域でトンビャンが織られることはなくなった。原材料である植物の種類が不明であることより、現在では「幻の織物」として沖縄では位置づけられている。その原材料が竜舌蘭の一種ではないかと一部の研究者の間では説明されているが、未だに不明なままであると言わざるを得ない。 台湾や海南島(海南省)では明治・大正・昭和の時期にパイナップル(鳳梨)繊維を織物用として広範囲に特用農産物として栽培し、外国や内国へ輸出(移出)していたことが当時の資料や統計から明らかとなっている。主に中国大陸沿岸地域に輸出(移出)していたが、輸出先で鳳梨繊維の名称が麻類の名称へ変化することが多く、中国大陸沿岸地域での鳳梨繊維利用の確認が困難であった。しかし、福州港、また福州の周辺地域にも鳳梨繊維が流通していることが明らかとなり、福州で購入したという沖縄のトンビャンはこの鳳梨繊維で生産されたと考えることができる。見た目上、鳳梨繊維と沖縄のトンビャンの繊維が類似していること、台湾などにおける鳳梨繊維の外国への輸出供給量の減少時期と、沖縄におけるトンビャン生産量の減少時期が一致していることもそのことを裏付けている。つまり、トンビャンの原材料は主にパイナップルである可能性を指摘できる。図は予想されるトンビャンの原材料から消費地までの流通経路である。 沖縄の植物繊維の織物の一つに芭蕉布というものがある。芭蕉布などは沖縄で原材料である芭蕉を沖縄で栽培し、沖縄で織る織物であるが、一方トンビャンは輸入品のみの織物であることから、元々その織物を外国に求めていた貿易品であったと推察される。