著者
米森 和子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S24-1, 2020 (Released:2020-09-09)

構造生物学は、タンパク質の構造情報を明らかにすることで創薬に貢献してきた。この20年間はX線を用いた構造解析が中心であり、とくにキナーゼに代表される酵素では、合成化学者が構造情報をもとに活性向上を指向したStructure-Based Drug Discovery(SBDD)を精力的におこなってきた。 近年注目を集めているクライオ電子顕微鏡により、さらに構造生物学の幅がひろがろうとしている。クライオ電子顕微鏡はチャネルやトランスポーター、複合体など、X線結晶構造解析での構造取得が難しかった分子量が大きく、かつ、複数コンホメーションを取り得る生体分子の構造解析を得意としている。これらのターゲットクラスにはhERGなど毒性に関与するタンパク質が多くあり、構造情報が得られることでオフターゲット回避もSBDDを用いて効率的におこなえるようになると期待できる。 クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析例は年々増えている一方で、残念ながら日本では絶対数としてクライオ電子顕微鏡の数が少なく企業が個別に利用できる環境にはない。毒性や動態で課題となるタンパク質は共通であることから、当社をはじめとする製薬企業では非競合領域での産官学連携組織を立ち上げて、毒性・動態関連タンパク質の構造解析に共同で取り組んでいる。本講演ではこの連携について紹介し、毒性領域へのさらなる応用について議論したい。