著者
Ken FUTAGAMI Thomas Kwong Soon TIONG Christine Li Mei LEE Yong Lin HUANG Yoko NOMURA Yasunari KANDA Sachiko YOSHIDA
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-5S, 2020 (Released:2020-09-09)

環境中や食品中の化学物質が身体に与える影響について、経済協力開発機構(OECD)による統一的な試験が試みられている。発達期の神経形に対する毒性は、確実に毒性を示すポジティブコントロール物質(P物質)と、毒性を示さないネガティブコントロール物質(N物質)が提案されているが、近年、従来N物質とされた物質の一部に発達期毒性があり、自閉症や発達傷害などの高次脳機能障害の増加を誘発することが示唆されるようになった。グリホサートは世界で最も多く使用されている除草剤ラウンドアップの有効成分であり、土壌中ではアミノメチルホスホン酸(AMPA)に代謝され、OECDテストガイドラインのN物質である。除草剤としての機能は、植物中の芳香族アミノ酸を合成するシキミ酸経路において、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼ(EPSPS)を阻害することである。一方、このシキミ酸経路は動物には存在しないため安全であると考えられてきたが、動物の腸内細菌にはシキミ酸経路が存在するため、近年、胎生期グリホサート曝露により、神経障害の誘発や行動異常が報告されるようになってきた。本研究室では、胎生期に単回100、250 mg/kg-グリホサート曝露又は単回250 mg/kg-AMPA曝露させることにより、小脳の神経細胞異常と行動異常を報告してきた。そこで、本研究では、胎生期慢性グリホサート曝露による小脳皮質に与える影響を検討した。結果は、雄の仔ラットにおいて、プルキンエ細胞の有意な減少が観察された。さらに、雄及び雌の仔ラットにおいて、活性型ミクログリアのプルキンエ細胞層(PL)に対する有意な分布が観察された。従って、グリホサートは発達期に対する神経毒性があると考えられる。
著者
米森 和子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S24-1, 2020 (Released:2020-09-09)

構造生物学は、タンパク質の構造情報を明らかにすることで創薬に貢献してきた。この20年間はX線を用いた構造解析が中心であり、とくにキナーゼに代表される酵素では、合成化学者が構造情報をもとに活性向上を指向したStructure-Based Drug Discovery(SBDD)を精力的におこなってきた。 近年注目を集めているクライオ電子顕微鏡により、さらに構造生物学の幅がひろがろうとしている。クライオ電子顕微鏡はチャネルやトランスポーター、複合体など、X線結晶構造解析での構造取得が難しかった分子量が大きく、かつ、複数コンホメーションを取り得る生体分子の構造解析を得意としている。これらのターゲットクラスにはhERGなど毒性に関与するタンパク質が多くあり、構造情報が得られることでオフターゲット回避もSBDDを用いて効率的におこなえるようになると期待できる。 クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析例は年々増えている一方で、残念ながら日本では絶対数としてクライオ電子顕微鏡の数が少なく企業が個別に利用できる環境にはない。毒性や動態で課題となるタンパク質は共通であることから、当社をはじめとする製薬企業では非競合領域での産官学連携組織を立ち上げて、毒性・動態関連タンパク質の構造解析に共同で取り組んでいる。本講演ではこの連携について紹介し、毒性領域へのさらなる応用について議論したい。
著者
尾﨑 まみこ
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S11-3, 2020 (Released:2020-09-09)

植物は常に食植生昆虫の脅威にさらされているため、昆虫による食害に対抗して植物体内に毒を生産するものが多い。特に解毒機構を進化させてこなかった昆虫種は、植物体を食べ尽くすころには絶命することになる。しかし、昆虫の方でも毒を素早く検出して避けることができれば、生き延びる可能性が高くなることから、ヒトと同様に、毒物を苦味として知覚する味覚受容・認識機構を発達させて毒を検知している。昆虫の苦味受容については2000年ごろまではほとんどわかっておらず、私達とイタリアの研究グループがほぼ同時にハエの味覚器で苦味受容細胞を機能的に特定することに成功したが、その細胞が、経口毒の検出に関わって緊急な嘔吐反応を引き起こすきっかけとなっていることは、味覚器における匂い物質結合蛋白質(gustatory OBP)の関与に気づいた私達の研究によって初めて明らかとなった。また、同一物質の匂いを認知するための嗅覚器も毒の検出に一役買っており、嗅覚器である触角で嗅ぎ分けられた毒物の匂い情報が、昆虫の食欲を有意に低下させること、その匂いの記憶が食欲低下を一生涯維持させることなども分かってきた。この食欲不振はハエにとって、一見不健康にみえるかもしれないが、毒物を摂取して絶命することを思えば有益な反応であるとも考えられる。そうであれば、植物は、もはや自らを食べ尽くさせてまで致死毒を以て昆虫を殺す必要はなく、昆虫の味覚器や嗅覚器の毒検出機構にターゲットを絞って、ほんの少しの食害で、苦い味、食欲を減退させる匂いをもつ嫌悪物質を生産する方が賢明であろう。このような、防除戦略に移行した植物がいる。後半では、双方が死に至る毒に頼った防御放棄して、双方の生き残りが望める新たな防御戦略を獲得したアブラナ科植物の話をつけ加えたい。
著者
柳場 由絵 豊岡 達士 王 瑞生 甲田 茂樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-116, 2020 (Released:2020-09-09)

【背景・目的】国内の化学工場において膀胱がんの発症が多数報告された事例では、芳香族アミン類が主に皮膚経路で吸収され、がんを誘発したと疑われている。現場で生じた膀胱がん症例の一部は、オルト-クロロアニリン(OCA)のばく露歴もあり、またインビトロ実験でこの物質は強い遺伝毒性が観察された。しかし、OCAについては、その経皮吸収に関する報告や定量的情報はなく、体内に入った後どの臓器に分布するかは不明である。そこで本研究では、ラットを用いて、OCA 経皮投与後のOCAの全身への分布・動態等について検討した。【方法】雄性Crl:CD(SD)ラット(7週齢)を用い、イソフルラン麻酔下で背部を剪毛、毛剃毛し、[14C]OCA経皮投与液を50mg/748kBq/4ml/kgの用量で塗布したリント布を用いて、8時間、24時間経皮投与した。投与終了後、リント布を剥離し、イソフルラン吸入麻酔下、炭酸ガスの過剰吸入により安楽死させ、全身オートラジオルミノグラムを作成した。投与後代謝ケージに収容し、採尿区間は投与開始後0~4時間、4~8時間、8~24時間の3時点とした。【結果・考察】投与後8時間、24時間の膀胱に放射活性が高く、投与したOCAのほとんどが膀胱へ移行していることが観察された。一方、肝臓や腎臓などの臓器への分布はほとんど観察されなかった。尿中排泄率からも投与後8~24時間の間で投与したOCA濃度の86%が排泄されており、これらの結果から、OCAは投与後、速やかに経皮吸収され、膀胱等に高濃度で移行する。また、24時間以内に投与濃度の大部分が尿中へと排泄され、肝臓や腎臓への蓄積が少ない物質であることが示唆される。
著者
斎藤 芳郎
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-5, 2020 (Released:2020-09-09)

必須微量元素であるセレンは反応性が高く、強い毒性を持つ元素であるが、生体はセレンの特性を巧みに取り込み、生体防御に利用している。セレンはセレノシステイン(Sec:システインの硫黄がセレンに置換したアミノ酸)の形で主にタンパク質中に含まれ、過酸化物を還元・無毒化するグルタチオンペルオキシダーゼやレドックス制御因子チオレドキシン還元酵素の活性部位を形成する。セレンは、これらの抗酸化酵素の生合成に必須であり、生体の酸化ストレス防御において要となる栄養素である。しかし、近年セレンの代謝異常が糖尿病など生活習慣病に深く関与することが明らかとなった。高血糖・高脂肪により誘導された血漿セレン含有タンパク質セレノプロテインP(SeP)が、インスリン抵抗性やインスリン分泌を悪化し、糖尿病の発症進展に“悪玉”として作用することが明らかとなっている。 食品中に含まれるセレンは消化された後、消化管から吸収され、セレン含有タンパク質の合成経路に入るが、その代謝経路はセレンの形態によって異なる。Secは生体により“セレン”と認識され、Secリアーゼにより分解されて生じた無機セレンがSec合成系に入る。一方、体内に吸収されたセレノメチオニン(SeMet:メチオニンの硫黄がセレンに置き換わったアミノ酸)は生体内でセレン・硫黄の区別されずに代謝され、一部はタンパク質中にも取り込まれる。本発表では、セレンと硫黄代謝の接点、特に各元素を含むアミノ酸の代謝経路および生体内における各元素の識別機構について概説する。さらにセレンと硫黄代謝のクロストーク、特に親電子性物質に対する生体応答・解毒作用について議論する。