著者
西田 栄介 米沢 直人
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

コファリンとでストリンは、低分子性の互いに近緑のアクチン結合蛋白質で、前者はpH依存性の、後者はpH非依存性のF-アクチン脱重合活性を有する。コフィリンのTrp^<104>-Met^<115>の領域(デストリンにも保存されている)がアクチン結合部位であることが明らかになった。また、この領域がイノシトールリン脂質(PIP_2並ビにPIP等)結合部位でもあることが判明した。この領域に相当する合成ドデカペプチドは、アクチン並びにPIP_2及びPIPと強く結合し、結果としてPIP_2ないしPIP感受性のアクチン重合阻害活性を有することがわかった。このドデカペプチド及びコフィリンが、ホスホリパーゼCによるPIP_2の加水分解を強く阻害することがわかった。したがって、コフィリンはアクチン系細胞骨格の調節因子としてばかりでなく、イノシトールリン脂質の関与するシグナル伝達系の制御因子として機能する可能性が示唆された。出芽酵母から、DNaseI-アフィニティークロマトグラフィーを用いてコフィリン様蛋白を同定した。部分アミノ酸配列をもとに、遺伝子のクローニングを行った。また、cDNAクローンをもとに大腸菌に組み換え体の蛋白質を発現させ、精製してin vitroでの性質を調べたところ、(i)pHに依存したF-アクチン脱重合活性を有する、(ii)G-アクチン及びF-アクチンの双方に結合しうる、(iii)PIP_2と結合する、ことの3点が明らかになった。この性質は哺乳類コフィリンと完全に一致していた。さらに、アミノ酸配列も哺乳類コフィリンと約40%同一であった。以上の結果から、この出芽酵母コフィリン様タンパク質は酵母コフィリンであると結論し、その遺伝子をCOF1と命名した。COF1は、遺伝子破壊の実験から、酵母の生育に必須であることが判明した。